血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第二十一話 大聖女
戸惑うアイリスと別れて、数時間後。
王宮の廊下を歩いていれば、アイリスがいた。不安げな彼女が恐る恐る近づいてくる。
「約束通り来たのだな」
「はい。ブラッド殿下……」
「浮かない顔だ。どうした? アイリス」
「あの……王妃様が……」
「ああ、教えに来たのか? いい子だ」
「はい。王妃宮の裏廊下に向かっていました。あの人が……」
「そうか……」
王妃は、フィランの仇と思い込んで、リラを捕らえ処刑しようとしている。それと同時に次の王太子殿下の問題に頭を悩ませている。
そのため、アイリスを俺に差し向けるために呼び出していたのだろうけど……。
「では、アイリス。君は大聖女の元に行きなさい」
「大聖女様のところですか?」
「そうだ。大聖女。いるんだろ?」
アイリスの肩に手を置いたままで横をむけば、柱の陰から大聖女が現れた。その後ろには、お付きの聖女もいる。
「お呼び出しを受けたと思えば……」
「アイリス・ウィンシュルト公爵令嬢だ。彼女も聖女の一人だ。大聖女に預けるから後を頼む」
夜も更け暗い廊下から月明かりに差された大聖女がアイリスを一睨みする。
聖女は、癒しの魔法を使える女性に与えられる称号だった。国お抱えになるために、聖女になれば、定期的な給金ももらえる。
「ブラッド殿下? 私はブラッド殿下が匿ってくださるのでは……」
「俺のところは無理だ。だけど、聖女機関なら問題ないだろう。聖女は国への発言力を奪われたが、その地位は確固としてある。それに、アイリスも聖女だ。隠れる場所には最適だ。聖女機関で、過ごすのがいい」
誰も俺の邸で匿うなど言ってない。慈悲と侮蔑を込めたような笑顔を浮かべてアイリスに近付いて言う。期待通りにいかなかったアイリスが戸惑いを見せるが、大聖女は気にすることなくアイリスを受け取った。
「アイリス・ウィンシュルトを連れて行きなさい。私直属の聖女として召し抱えます」
「はい。大聖女様」
大聖女が、一緒に連れて来た聖女に言う。
戸惑いながらアイリスが何度も俺に振り向きながら、アイリスは聖女に連れられて行った。
「これで、よろしいので?」
「もちろんだ。急な願いを聞いてくれて助かる」
「殿下には、感謝しております。私たちは幾人もの聖女が戦場に送られました。前線で捕らえられた時に、私たちを救ってくださったのはブラッド殿下です。ブラッド殿下が助けて下さらなければ、前線に送られた私の聖女たちがどんな目に合っていたか……殿下には、いかなる時にも従います」
戦場に聖女は何人も送られた。癒しの魔法の使い手だからだ。大聖女様は、聖女たちの前線への出陣を何度もやめる様に訴えたが、王妃も陛下も聞き入れてはくれなかった。せめて、前線の負傷者を癒す場所を、前線から少し離した場所に作った。
勝手に前線から下がらせ、陛下たちの耳に入れば、聖女たちがどんな罰を受けるかわからない。王妃が、大聖女を含め、聖女たちの発言力を奪って自分のものにしていたからだ。そのせいで、聖女たちは、意見をすることを許されなくなっている。
おかげで、前線から下がらせることができずに、俺にできることはそれだけだった。
そして、前線で俺たちがアギレア王国捕らえられたと同時に、聖女たちも捕らえられた。前線の近くにいたから、すぐに捕らえられたのだ。あのまま放っておいたら、聖女たちの身は酷いものだっただろう。
聖女は、大聖女様までもが国への発言力を奪われてしまっている。聖女の地位は確固としてあるのに、王妃が聖女としての発言力を奪ってしまったのだ。そのせいで、大聖女が聖女のトップであったにも関わらず、大聖女の上に王妃が立つという特別な地位を置いてしまった。
そのせいで、聖女は王妃の管轄になってしまっている。おかげで、大聖女は王妃も陛下も恨んでいる。大聖女が耐えているのは、聖女たちが不当な目に合わないように口をつぐんでいるのだ。
「大聖女様。王妃やウィンシュルト公爵が来ても、絶対にアイリスを渡さないでくれ」
「……アイリスは聖女の勤めを何もしてませんわ。聖女たちの中に入れて、どうなるかわかりませんわよ?」
とくに戦に出た聖女たちは、聖女という称号だけ受けて、何もしない貴族の聖女を嫌っていた。アイリスなど、その嫌われる要素そのものだ。
「好きにすればいい。特別扱いもいらないだろう? もう、誰の庇護もない」
「はい。殿下の御心のままに……」
そう言って、大聖女が一礼して下ろうと踵を返した。
「大聖女。必ず、君たち聖女の地位を回復してみせる。聖女の発言力は君のものだ」
「期待しております。ブラッド殿下」
「では、俺は陛下に呼び出されているから、これで失礼する」
「はい。よしなに」
王宮の廊下を歩いていれば、アイリスがいた。不安げな彼女が恐る恐る近づいてくる。
「約束通り来たのだな」
「はい。ブラッド殿下……」
「浮かない顔だ。どうした? アイリス」
「あの……王妃様が……」
「ああ、教えに来たのか? いい子だ」
「はい。王妃宮の裏廊下に向かっていました。あの人が……」
「そうか……」
王妃は、フィランの仇と思い込んで、リラを捕らえ処刑しようとしている。それと同時に次の王太子殿下の問題に頭を悩ませている。
そのため、アイリスを俺に差し向けるために呼び出していたのだろうけど……。
「では、アイリス。君は大聖女の元に行きなさい」
「大聖女様のところですか?」
「そうだ。大聖女。いるんだろ?」
アイリスの肩に手を置いたままで横をむけば、柱の陰から大聖女が現れた。その後ろには、お付きの聖女もいる。
「お呼び出しを受けたと思えば……」
「アイリス・ウィンシュルト公爵令嬢だ。彼女も聖女の一人だ。大聖女に預けるから後を頼む」
夜も更け暗い廊下から月明かりに差された大聖女がアイリスを一睨みする。
聖女は、癒しの魔法を使える女性に与えられる称号だった。国お抱えになるために、聖女になれば、定期的な給金ももらえる。
「ブラッド殿下? 私はブラッド殿下が匿ってくださるのでは……」
「俺のところは無理だ。だけど、聖女機関なら問題ないだろう。聖女は国への発言力を奪われたが、その地位は確固としてある。それに、アイリスも聖女だ。隠れる場所には最適だ。聖女機関で、過ごすのがいい」
誰も俺の邸で匿うなど言ってない。慈悲と侮蔑を込めたような笑顔を浮かべてアイリスに近付いて言う。期待通りにいかなかったアイリスが戸惑いを見せるが、大聖女は気にすることなくアイリスを受け取った。
「アイリス・ウィンシュルトを連れて行きなさい。私直属の聖女として召し抱えます」
「はい。大聖女様」
大聖女が、一緒に連れて来た聖女に言う。
戸惑いながらアイリスが何度も俺に振り向きながら、アイリスは聖女に連れられて行った。
「これで、よろしいので?」
「もちろんだ。急な願いを聞いてくれて助かる」
「殿下には、感謝しております。私たちは幾人もの聖女が戦場に送られました。前線で捕らえられた時に、私たちを救ってくださったのはブラッド殿下です。ブラッド殿下が助けて下さらなければ、前線に送られた私の聖女たちがどんな目に合っていたか……殿下には、いかなる時にも従います」
戦場に聖女は何人も送られた。癒しの魔法の使い手だからだ。大聖女様は、聖女たちの前線への出陣を何度もやめる様に訴えたが、王妃も陛下も聞き入れてはくれなかった。せめて、前線の負傷者を癒す場所を、前線から少し離した場所に作った。
勝手に前線から下がらせ、陛下たちの耳に入れば、聖女たちがどんな罰を受けるかわからない。王妃が、大聖女を含め、聖女たちの発言力を奪って自分のものにしていたからだ。そのせいで、聖女たちは、意見をすることを許されなくなっている。
おかげで、前線から下がらせることができずに、俺にできることはそれだけだった。
そして、前線で俺たちがアギレア王国捕らえられたと同時に、聖女たちも捕らえられた。前線の近くにいたから、すぐに捕らえられたのだ。あのまま放っておいたら、聖女たちの身は酷いものだっただろう。
聖女は、大聖女様までもが国への発言力を奪われてしまっている。聖女の地位は確固としてあるのに、王妃が聖女としての発言力を奪ってしまったのだ。そのせいで、大聖女が聖女のトップであったにも関わらず、大聖女の上に王妃が立つという特別な地位を置いてしまった。
そのせいで、聖女は王妃の管轄になってしまっている。おかげで、大聖女は王妃も陛下も恨んでいる。大聖女が耐えているのは、聖女たちが不当な目に合わないように口をつぐんでいるのだ。
「大聖女様。王妃やウィンシュルト公爵が来ても、絶対にアイリスを渡さないでくれ」
「……アイリスは聖女の勤めを何もしてませんわ。聖女たちの中に入れて、どうなるかわかりませんわよ?」
とくに戦に出た聖女たちは、聖女という称号だけ受けて、何もしない貴族の聖女を嫌っていた。アイリスなど、その嫌われる要素そのものだ。
「好きにすればいい。特別扱いもいらないだろう? もう、誰の庇護もない」
「はい。殿下の御心のままに……」
そう言って、大聖女が一礼して下ろうと踵を返した。
「大聖女。必ず、君たち聖女の地位を回復してみせる。聖女の発言力は君のものだ」
「期待しております。ブラッド殿下」
「では、俺は陛下に呼び出されているから、これで失礼する」
「はい。よしなに」