血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第二十四話 死神
騎士団の塔にある牢屋の一つ。そこにクレメンスを拘留した。
「クレメンス。牢の居心地はどうだ?」
「ブラッド殿下! 出してください! こんなことをすれば、王妃がどうなるか!」
「王妃よりも自分のことを心配したほうがいいぞ。陛下も、大層お怒りだ」
「へ、陛下が……」
「当たり前だ。王妃とは不仲なところはあっただろうが、二人にはフィラン殿下という愛しい王子がいたのだ。そのおかげで、二人は通じるものがあった。それが壊れた今、陛下の御心はなんとする? 俺としては冷静でいて欲しいものだが……」
フィラン殿下が生きていれば、王妃が浮気をしていようが陛下もお心を鎮めただろうが、もう無理だろう。
ブツブツと呟き、どうしていいのか分からずに思考を巡らしながら困惑しているクレメンスが、ハッしたようにゆっくりとこちらを見た。
「……も? 陛下の他に誰が私に怒っているのです?」
察しが悪い。やっと気づいたクレメンスに、侮蔑を込めた表情で口角を上げた。
「まさか……なぜ、ブラッド殿下が王妃のことで怒るのです!? 有り得ない。あなたは、王妃に嫌われていて……あなたも王妃とは、相容れなかった!」
「察しが悪いにもほどがある。そうだな……リラのことは口にするべきではなかったな」
「私は何も……フェアラート邸でのことは、王妃様の命令で……」
「それだけか?」
「……う、噂を流したのも、私ではなくて……」
「だが、噂を流すように仕向けられていた。警備についていた時に聞いたのだろう? 少しずつ噂が流れた理由は気付いている」
リラが襲われたという噂が流れたのは、城からだった。そう思えば、噂が流れた出所も検討がついていた。城で警備についていたクレメンスやその騎士たちからまことしやかに流れ、社交界へと広がったのだ。
「お前、このままだと殺されるぞ」
「だ、誰が私を……」
狼狽えるクレメンスが、暗がりにいる俺と視線が交わった。
「ひっ……し、死神っ……」
牢屋の暗がりで死神のように見えたのだろうか。クレメンスが怯える。
「ああ……前線では、俺を見たものはそう言ったな」
どれほど手にかけたのか、わからない。血を浴びてでも進むしかなかった。
国を広げようと隣国を攻めて、騎士たちの命と引き換えに少しずつ手に入れた領地に何の意味もない。
そして、最後にわが国がアギレア王国に手を出してしまった。竜の逆鱗に触れたも同然の行為だった。アギレア王国は竜騎士団を持ち、王族は竜の血を引いているという噂もある国。どこの国よりも苦戦を強いられて、俺たちは前線でアギレア王国に捕らえられた。
「……前線に出てないお前でも知っていたか。王妃の手で、戦から離れたのだろう? 実家からの多額の金を王妃に献上したらしいな。家族からも愛されているお前には、嘲笑の的になる気持ちは一生わからないだろうな」
だから、リラが襲われた事件も、何の考えもなく流した。リラがどんな気持ちでいたのかもわからずに……。
クレメンスが、力なく膝をつく。
__勝手に死ねばいい。
何も言わなくなったクレメンスを背後に塔を出た。
「……まだ、クレメンスへの客人が来る。手筈通りにやれ」
「かしこまりました」
前線に出た騎士も聖女も、誰も俺を裏切らない。あの前線で捕らえられた者たちは、皆が俺を恩人と思っているから……。
「クレメンス。牢の居心地はどうだ?」
「ブラッド殿下! 出してください! こんなことをすれば、王妃がどうなるか!」
「王妃よりも自分のことを心配したほうがいいぞ。陛下も、大層お怒りだ」
「へ、陛下が……」
「当たり前だ。王妃とは不仲なところはあっただろうが、二人にはフィラン殿下という愛しい王子がいたのだ。そのおかげで、二人は通じるものがあった。それが壊れた今、陛下の御心はなんとする? 俺としては冷静でいて欲しいものだが……」
フィラン殿下が生きていれば、王妃が浮気をしていようが陛下もお心を鎮めただろうが、もう無理だろう。
ブツブツと呟き、どうしていいのか分からずに思考を巡らしながら困惑しているクレメンスが、ハッしたようにゆっくりとこちらを見た。
「……も? 陛下の他に誰が私に怒っているのです?」
察しが悪い。やっと気づいたクレメンスに、侮蔑を込めた表情で口角を上げた。
「まさか……なぜ、ブラッド殿下が王妃のことで怒るのです!? 有り得ない。あなたは、王妃に嫌われていて……あなたも王妃とは、相容れなかった!」
「察しが悪いにもほどがある。そうだな……リラのことは口にするべきではなかったな」
「私は何も……フェアラート邸でのことは、王妃様の命令で……」
「それだけか?」
「……う、噂を流したのも、私ではなくて……」
「だが、噂を流すように仕向けられていた。警備についていた時に聞いたのだろう? 少しずつ噂が流れた理由は気付いている」
リラが襲われたという噂が流れたのは、城からだった。そう思えば、噂が流れた出所も検討がついていた。城で警備についていたクレメンスやその騎士たちからまことしやかに流れ、社交界へと広がったのだ。
「お前、このままだと殺されるぞ」
「だ、誰が私を……」
狼狽えるクレメンスが、暗がりにいる俺と視線が交わった。
「ひっ……し、死神っ……」
牢屋の暗がりで死神のように見えたのだろうか。クレメンスが怯える。
「ああ……前線では、俺を見たものはそう言ったな」
どれほど手にかけたのか、わからない。血を浴びてでも進むしかなかった。
国を広げようと隣国を攻めて、騎士たちの命と引き換えに少しずつ手に入れた領地に何の意味もない。
そして、最後にわが国がアギレア王国に手を出してしまった。竜の逆鱗に触れたも同然の行為だった。アギレア王国は竜騎士団を持ち、王族は竜の血を引いているという噂もある国。どこの国よりも苦戦を強いられて、俺たちは前線でアギレア王国に捕らえられた。
「……前線に出てないお前でも知っていたか。王妃の手で、戦から離れたのだろう? 実家からの多額の金を王妃に献上したらしいな。家族からも愛されているお前には、嘲笑の的になる気持ちは一生わからないだろうな」
だから、リラが襲われた事件も、何の考えもなく流した。リラがどんな気持ちでいたのかもわからずに……。
クレメンスが、力なく膝をつく。
__勝手に死ねばいい。
何も言わなくなったクレメンスを背後に塔を出た。
「……まだ、クレメンスへの客人が来る。手筈通りにやれ」
「かしこまりました」
前線に出た騎士も聖女も、誰も俺を裏切らない。あの前線で捕らえられた者たちは、皆が俺を恩人と思っているから……。