血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第二十六話 第一発見者
クレメンスの胸からは、血が流れて……抜けた腰のままで後ずさりすると、カチンと金属音がした。震える手でそれを取ると、血の付いたナイフが一つ……血の気が引いた。クレメンスは、フィランと同じように刺殺されている。
左胸から流れる血は、フィランの時と違い真っ赤に滲んでいっている。そして、今度は私が第一発見者で……
「何事だ! ……っ王妃!? 何をなさっておいでだ!?」
「ち、違っ……」
血に付いたナイフを持ったままで、突然牢屋に降りてきた騎士に肩を掴まれる。私は、犯人ではない。ここに来たら、クレメンスが死んでいたのだ。首をひねり見上げた顔にさらに青ざめた。
「……っブラッド!!」
「……王妃。あなたは何をしておられる?」
何をしている? そんな疑問が白々しいと思える。
「なぜ、お前がここに……」
「あなたが密かに部屋を出て行ったと報告を受けました。王妃という身分を鑑みて誰も咎められずにいたので、俺が王妃の部屋や騎士団を定期的に回っているのですよ。それが、こんな凶行に出ようとは……」
「ふざけるでない!! 私がクレメンスを刺すわけがないであろう!」
「……刺されてますか、クレメンスは。よくご存じで」
「……っ見ればわかるであろう!」
「ええ、一目瞭然です。で、ここで何をされていましたか?」
「お前ごときに答える理由はない」
「理由を言いたくないなら、無理には聞かないことにしましょう。だが、第一発見者はあなただ」
「それがどうしたのです!? お前が、フィラン暗殺犯をいつまでも捕えられぬから、こんなことが起きるのです! 不愉快です!」
ブラッドが侮蔑を込めた笑みで私を見下ろす。不愉快な思いで奥歯を嚙み締めた。
「王妃。あなたはこの状況がわかっておられないようだ」
「私が、殺人を犯したとでもいうのか!?」
「だってそうでしょう? 牢屋に拘留されたクレメンスが殺された。その第一発見者はあなただ。この状況なら、あなたの推理では、第一発見者が犯人で処刑の対象になるのでは? ああ、推理と言うほどでもなかったか」
「わ、私はリラとは違うわ!」
「だが、そのリラを第一容疑者として処刑しようとしたのは、あなただ。王妃。ですから、たまにはあなたの意見を取り入れようかと考えたのですがね」
背筋が凍る。これでは、フィランの事件と同じだ。そして、今度の第一発見者は私。フィランの事件の時は、第一発見者のリラを処刑しようとした。そして、今度は私がその対象になる。
「一人で立てますか?」
白々しくブラッドが私に手を差し出す。
「さ、触るでない!」
立ち上がって持っていたナイフを振ってブラッド向けた。ブラッドの頬が一筋斬れると、血が流れた。その血を指で掬い取ったブラッドが悪魔のように血を舐める。
このままだと、無実の罪で処刑されてしまう。ブラッドは、笑顔でも一度も目が笑ったことなど見たことがない。今も、ロウソクの燭台しかない薄暗い牢屋の中で侮蔑と慈悲を込めた笑顔で私を見て……
「……っ!? ブラッド!? その眼は何なの!?」
「ああ、見えましたか……余計なことを見て、バカな王妃だ」
ゆらりと風で揺れたロウソクの灯りは怪しげにブラッドの顔を照らした。恐ろしい。全身の血の気が引いた。そして、冷ややかにブラッドが命令を下す。
「王妃を捕らえろ」
左胸から流れる血は、フィランの時と違い真っ赤に滲んでいっている。そして、今度は私が第一発見者で……
「何事だ! ……っ王妃!? 何をなさっておいでだ!?」
「ち、違っ……」
血に付いたナイフを持ったままで、突然牢屋に降りてきた騎士に肩を掴まれる。私は、犯人ではない。ここに来たら、クレメンスが死んでいたのだ。首をひねり見上げた顔にさらに青ざめた。
「……っブラッド!!」
「……王妃。あなたは何をしておられる?」
何をしている? そんな疑問が白々しいと思える。
「なぜ、お前がここに……」
「あなたが密かに部屋を出て行ったと報告を受けました。王妃という身分を鑑みて誰も咎められずにいたので、俺が王妃の部屋や騎士団を定期的に回っているのですよ。それが、こんな凶行に出ようとは……」
「ふざけるでない!! 私がクレメンスを刺すわけがないであろう!」
「……刺されてますか、クレメンスは。よくご存じで」
「……っ見ればわかるであろう!」
「ええ、一目瞭然です。で、ここで何をされていましたか?」
「お前ごときに答える理由はない」
「理由を言いたくないなら、無理には聞かないことにしましょう。だが、第一発見者はあなただ」
「それがどうしたのです!? お前が、フィラン暗殺犯をいつまでも捕えられぬから、こんなことが起きるのです! 不愉快です!」
ブラッドが侮蔑を込めた笑みで私を見下ろす。不愉快な思いで奥歯を嚙み締めた。
「王妃。あなたはこの状況がわかっておられないようだ」
「私が、殺人を犯したとでもいうのか!?」
「だってそうでしょう? 牢屋に拘留されたクレメンスが殺された。その第一発見者はあなただ。この状況なら、あなたの推理では、第一発見者が犯人で処刑の対象になるのでは? ああ、推理と言うほどでもなかったか」
「わ、私はリラとは違うわ!」
「だが、そのリラを第一容疑者として処刑しようとしたのは、あなただ。王妃。ですから、たまにはあなたの意見を取り入れようかと考えたのですがね」
背筋が凍る。これでは、フィランの事件と同じだ。そして、今度の第一発見者は私。フィランの事件の時は、第一発見者のリラを処刑しようとした。そして、今度は私がその対象になる。
「一人で立てますか?」
白々しくブラッドが私に手を差し出す。
「さ、触るでない!」
立ち上がって持っていたナイフを振ってブラッド向けた。ブラッドの頬が一筋斬れると、血が流れた。その血を指で掬い取ったブラッドが悪魔のように血を舐める。
このままだと、無実の罪で処刑されてしまう。ブラッドは、笑顔でも一度も目が笑ったことなど見たことがない。今も、ロウソクの燭台しかない薄暗い牢屋の中で侮蔑と慈悲を込めた笑顔で私を見て……
「……っ!? ブラッド!? その眼は何なの!?」
「ああ、見えましたか……余計なことを見て、バカな王妃だ」
ゆらりと風で揺れたロウソクの灯りは怪しげにブラッドの顔を照らした。恐ろしい。全身の血の気が引いた。そして、冷ややかにブラッドが命令を下す。
「王妃を捕らえろ」