血に堕ちたライラックはウソにまみれている

第二十九話 交わらないライラック

 もし、リラが俺を騙していたら? 

 

 フィラン殿下の暗殺には、関わりは無いはずだった。なぜ、リラがあの場所で倒れていたのか知らない。



 でも、何か知っている。でも、何も知らないと発言している。リラは敵ではない。そう思うのに、不安がぬぐい切れない。



 街の外れへと馬を走らせて、リーガがいると言う家につくと、古びた小さな木の家は、ひと気がない。



「……どなたかおられるか?」



 扉を叩いても、返事一つない。扉は施錠されている。焦る気持ちから、力任せに木の扉を押し開けた。古い扉は難なく壊れる。



「リーガ! いないのか!? リラ!」



 誰もいない。でも、人がいた形跡はある。扉を開けた先は、すぐが台所とダイニングなのか、テーブルがある。台所に置かれたコップ。部屋の空気が淀んでいる気配はない。間違いなくリーガはここにいたのだと思う。



 部屋は、リラの部屋のようにほのかにいい香りがした。



「リラのポプリの香りか?」



 部屋を通り奥に行くと、裏口があった。リーガは、親から継いだ花畑で花を育てていると言っていたはず。



 裏庭にでもいるのだろうか。



 そんな期待をして開けける。リーガが言っていた花畑があるのかと思えば……そこには、何もない。愕然とする。以前は畑だったであろう場所には、草がところどころにあるただの平地しかない。



「リーガはどこだ! リラは!!」



 愕然としたままで、リーガの家だと思った家を飛び出した。馬に飛び乗り、一番近く民家にたどり着けば、老夫婦が庭の椅子でのどかに過ごしていた。



「失礼する。あの家のことを教えてくれ」

「りょ、領主様!?」

「急ぐんだ。あの家の子供はどこに行った!? 花売りの子供だ!」

「は、はい。こ、子供ですか?」



 夫婦がお互いに戸惑いながら顔を見合わせる。すると、主人がおそるおそる話す。



「花売りのことは知りません。この奥の家は、ずっと空き家です……細々と農家をしていた夫婦が住んでいましたが、娘夫婦のところに行くと言って、ずいぶん前に引っ越して行って……」

「空き家!?」

「は、はい!」



 そんなはずはない。リーガは、他界した親から花売りを継いだと言っていて……。



「でも、最近子供を見ました……親類でも来たのかと……そう言えば、先ほど綺麗な女性と連れ立って歩いていました……確か、珍しい紫色の髪で……」



 間違いない。リラだ。どこに行った?

 ケイナの話では、リーガにポプリを渡しに行って、そのままどこに? 買い物?

 

 だけど、嫌な予感が拭えない。本当に買い物に行ったのか?



 そもそも、なぜリラは、深夜に俺の部屋から出て来たんだ。まるで、人に見られるのを、恐れていたかのようだ。俺にまで秘密にして……。



「領主様……?」



 老夫婦が不安気な声音で俺を見るが、振り向くことなく馬に乗って去った。



 嫌な予感が頭を離れない。急いで飛び出してきたために丸腰だった。

 まるで、リラに惑わされたような気分になっている。そのまま、一心不乱に馬を走らせていた。











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