血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第三十二話 落花するカサブランカ 1
ブラッドに捕らえられた。今は、ブラッドに用意された部屋で厳重に見張られている。
「ここから、出しなさい! 私を誰だと思っているのです!!」
「なりません。ブラッド様のご命令です」
「ふざけるでない! 私は王妃であるのです!!」
「でしたら、お静かに……我らは、ブラッド様の命令しか聞きません」
何度扉を叩いて命令をしても、誰一人として私の言葉に従わない。
ここまで、ブラッドに忠誠を誓っているとは……。
このままだと、この国はおしまいだ。そして、間違いなく私は処刑される。
ブラッドの正体がわかった。あの青い眼と、何よりも印象的なあの瞳孔。間違いない。あれは、陛下の御子などではない。
何とかして、陛下に真実を伝えなければ、ブラッドに国も王家も食われてしまう。
いったいいつアリアが外と通じていたのかはわからない。でも、確かに縁談は持ち上がっていて……
その時に、ガチャリと扉が開かれた。ブラッド直属の騎士だろう。見たこともない騎士が入ってくる。
「王妃様。陛下がお呼びです」
陛下が呼んでいる。すぐに行ってブラッドの正体を告げなければ、この国も私たちも終わりだ。フィランがどうなるかもわからない。
見張りの付いた謹慎どころではない。今の私は罪人も同然の扱いだ。王妃という身分でなければ、きっと牢に拘置去れる。でも、陛下がお呼びで、ブラッドの正体を陛下に告げれば、きっと目を覚ましてくれる。
はやる気持ちで陛下の部屋へと、ブラッドの騎士に連れられて行くと、騎士が「どうぞ」と陛下の部屋の扉を開けた。
「陛下……」
部屋に入ると、扉はそっと閉められる。嫌な雰囲気に動悸が静まらない。
「王妃。居心地はどうですか? おかげんが激しいようですが?」
「ブラッド……! なぜ、ここに!? 陛下は!? すぐに陛下に事実をお伝えします! お前などこれで終わりです!」
「その陛下は、こちらですよ」
ブラッドが笑みを零しながら、座っているベッドの天蓋のカーテンを開けて、立ち上がった。そこには、弱々しい陛下が横たわっており、ゾッとした。
「へ、陛下!?」
ブラッドを突き飛ばす勢いで陛下に駆け寄った。
「陛下に何をしたのです!!」
「何も? フィラン暗殺に王妃の不貞……色々根詰めていたので、お薬をお勧めしただけです」
「ウソをつくな!」
「相変わらず気性の激しい方だ」
まるで悪魔のようにクスクスっと笑うブラッドに、怒りが沸いた。
「……カサブランカ……」
陛下が、救いを求めるように私の名前を呼び、弱々しく手を差し出した。
「陛下! しっかりしてください! すぐに医師を呼びます!」
「もう無駄だと思いますがね」
「……っ! 陛下を弑するなど重罪である! 控えよ!」
すると、陛下が私の手を握った。その力も弱く、必死で握り返した。
「陛下! ブラッドを王太子などにしてはいけません! ブラッドは、陛下の御子ではありません! 密かにアリアとの縁談があったあの男の子供です!」
「まさか……」
驚いてブラッドを呆然と見る陛下にブラッドは慌てもしない。
「この眼はやはり決定的だな……バカな王妃でさえ気付く」
「何と無礼な……っ! すぐにここから出ていけ! お前など、フィランとは違う!」
「出て行くのは、お前たちだ」
「バカなことを! 陛下さえいれば、お前などどうとでもできるのです!」
「その陛下もあなたもここで終わりだ」
そう言って、ブラッドが懐から薬瓶を一つ出した。
「アギレア王国との戦争が終わったと思っているのか? 俺はアギレア王国の陛下と約束を交わしているのだ」
「まさか……」
「前線で捕らえられて、無事で帰って来たことに不信感を得ないとは驚いたが……俺たち騎士団や聖女たちの気持ちも立場も考えられないのだから、当然といえば当然だった」
コトンと置かれた薬瓶に恐怖した。そばには、陛下が飲んでいた水差しとコップが二つある。ブラッドは死神だ。その名の通り、死神のように笑うのだ。
「……フィランを殺したのも、お前ですね。王太子になるために……」
「それは、違う。正直、王太子などどうでもいい」
「言い逃れを……っ、では、誰がフィランを殺したと言うのです! 未だに犯人を上げられないということは、お前かリラのどちらかが犯人で間違いないはず!」
「言い逃れではない。犯人も知っている。俺たちは、犯人が逃げて行くのを見たからな。それも、もうすぐで終わる」
「犯人を、見た……?」
「そうだ」
「ここから、出しなさい! 私を誰だと思っているのです!!」
「なりません。ブラッド様のご命令です」
「ふざけるでない! 私は王妃であるのです!!」
「でしたら、お静かに……我らは、ブラッド様の命令しか聞きません」
何度扉を叩いて命令をしても、誰一人として私の言葉に従わない。
ここまで、ブラッドに忠誠を誓っているとは……。
このままだと、この国はおしまいだ。そして、間違いなく私は処刑される。
ブラッドの正体がわかった。あの青い眼と、何よりも印象的なあの瞳孔。間違いない。あれは、陛下の御子などではない。
何とかして、陛下に真実を伝えなければ、ブラッドに国も王家も食われてしまう。
いったいいつアリアが外と通じていたのかはわからない。でも、確かに縁談は持ち上がっていて……
その時に、ガチャリと扉が開かれた。ブラッド直属の騎士だろう。見たこともない騎士が入ってくる。
「王妃様。陛下がお呼びです」
陛下が呼んでいる。すぐに行ってブラッドの正体を告げなければ、この国も私たちも終わりだ。フィランがどうなるかもわからない。
見張りの付いた謹慎どころではない。今の私は罪人も同然の扱いだ。王妃という身分でなければ、きっと牢に拘置去れる。でも、陛下がお呼びで、ブラッドの正体を陛下に告げれば、きっと目を覚ましてくれる。
はやる気持ちで陛下の部屋へと、ブラッドの騎士に連れられて行くと、騎士が「どうぞ」と陛下の部屋の扉を開けた。
「陛下……」
部屋に入ると、扉はそっと閉められる。嫌な雰囲気に動悸が静まらない。
「王妃。居心地はどうですか? おかげんが激しいようですが?」
「ブラッド……! なぜ、ここに!? 陛下は!? すぐに陛下に事実をお伝えします! お前などこれで終わりです!」
「その陛下は、こちらですよ」
ブラッドが笑みを零しながら、座っているベッドの天蓋のカーテンを開けて、立ち上がった。そこには、弱々しい陛下が横たわっており、ゾッとした。
「へ、陛下!?」
ブラッドを突き飛ばす勢いで陛下に駆け寄った。
「陛下に何をしたのです!!」
「何も? フィラン暗殺に王妃の不貞……色々根詰めていたので、お薬をお勧めしただけです」
「ウソをつくな!」
「相変わらず気性の激しい方だ」
まるで悪魔のようにクスクスっと笑うブラッドに、怒りが沸いた。
「……カサブランカ……」
陛下が、救いを求めるように私の名前を呼び、弱々しく手を差し出した。
「陛下! しっかりしてください! すぐに医師を呼びます!」
「もう無駄だと思いますがね」
「……っ! 陛下を弑するなど重罪である! 控えよ!」
すると、陛下が私の手を握った。その力も弱く、必死で握り返した。
「陛下! ブラッドを王太子などにしてはいけません! ブラッドは、陛下の御子ではありません! 密かにアリアとの縁談があったあの男の子供です!」
「まさか……」
驚いてブラッドを呆然と見る陛下にブラッドは慌てもしない。
「この眼はやはり決定的だな……バカな王妃でさえ気付く」
「何と無礼な……っ! すぐにここから出ていけ! お前など、フィランとは違う!」
「出て行くのは、お前たちだ」
「バカなことを! 陛下さえいれば、お前などどうとでもできるのです!」
「その陛下もあなたもここで終わりだ」
そう言って、ブラッドが懐から薬瓶を一つ出した。
「アギレア王国との戦争が終わったと思っているのか? 俺はアギレア王国の陛下と約束を交わしているのだ」
「まさか……」
「前線で捕らえられて、無事で帰って来たことに不信感を得ないとは驚いたが……俺たち騎士団や聖女たちの気持ちも立場も考えられないのだから、当然といえば当然だった」
コトンと置かれた薬瓶に恐怖した。そばには、陛下が飲んでいた水差しとコップが二つある。ブラッドは死神だ。その名の通り、死神のように笑うのだ。
「……フィランを殺したのも、お前ですね。王太子になるために……」
「それは、違う。正直、王太子などどうでもいい」
「言い逃れを……っ、では、誰がフィランを殺したと言うのです! 未だに犯人を上げられないということは、お前かリラのどちらかが犯人で間違いないはず!」
「言い逃れではない。犯人も知っている。俺たちは、犯人が逃げて行くのを見たからな。それも、もうすぐで終わる」
「犯人を、見た……?」
「そうだ」