血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第三十四話 死神のそばで咲くライラック
ブラッドの発言に陛下が弱々しく奥歯をかみ締める。
「英雄などハッキリ言ってなりたくはないが……最高のパフォーマンスだろうな」
ブラッドが、アギレア王国が攻めて来ると言えば間違いない。そして、ブラッド率いる騎士団は戦わない。確かに、近々アギレア王国の使者が来る。それが戦争の再開を絵図にしているなら……私たちは、戦争の始まりすら気づかずに敵を王城に招き入れた愚かな王と妃だ。
他の人間の発言なら、調べもする。間違いなく裏を取った。でも、この眼を持つブラッドだけは違う。
「もしそうなったら……」
「フィラン殿下の葬儀もまともに行われない。誰が失墜した王の子の葬儀を執り行うと思う。俺がそんな優しい人間に見えるか?」
フィランの葬儀でさえ、ブラッドにとっては駆け引きの材料なのだ。
フィランはたった一人の大事な息子だった。穏やかで可愛い私と陛下の大事な息子。フィランがいたから、陛下との関係も穏やかであった。
この国の陛下の子供で、唯一の王太子殿下だった。
そのフィランの葬儀すら危うくなっている。私の不貞がきっかけでブラッドに隙を作ってしまった。陛下は、アリアの想いブラッドを捨てなかった。
出生の怪しいブラッドを、あの戦で死んでくれと誰もが密かに望んだのに……。
「……陛下。終わりです……あなたがブラッドを王太子殿下になどお決めになるから……」
あの時点で、私たちはブラッドに支配されていたのだ。もう覆らない。いや、アリアを後宮に入れたせいで、こんな死神のような王子ができ上がってしまった。
「ふざけるな……っ、誰が……」
「でも、ブラッドを信じて何かの薬をお飲みになった。そうでしょう?」
どうして、アリアを後宮に入れたのだろうか。ベッドで何の抵抗も出来ない陛下に情けなくなる。誰も陛下に異を唱えない。情けない国。穏やかな国だった。でも、死神が王城を歩き回っていると気付かないほど安穏としてしまっていた。
陛下の初恋はアリアだった。その彼女の縁談の話を聞けば、縁談を邪魔するように後宮入りを決めた。私と結婚をしていながらも。そして、陛下の後宮に入っていた令嬢など、あのブラッドの父親であろう立場の人間が、他国の妾になったアリアを娶ることなどできるはずもなかった。
でも、今ならわかる。その頃には、恐らくブラッドを懐妊していたのだ。
「っ……」
「フィランが人知れず葬られるのは、耐えられません……私は、あの子の母親なのです。私たちがフィランにできることはもうこれが最後です」
最後を悟り、動けない陛下に毒杯を飲ませた。私でさえ押さえられるほどの力で抵抗は虚しく毒が陛下の喉に流れた。
私たちがフィランにできることは、もうこれしかない。子供を失墜した王の子として奉られたくない。死んでからでもだ。王太子殿下として死んだフィランを永遠に王太子の身分でいさせるには、今ここで私たちが終えるしかないのだ。
そして、ブラッドを一睨みして毒の飲んだ。
「犯人は、お前でなければ、やはりリラなの?」
「違う。何度もそう言った。犯人は、心臓を一突きにしていた。リラの持っていたナイフでは、届かない位置まで突き刺さったのだ。凶器はリラの持っていたナイフではない。明らかに、ナイフの大きさが違っていたことに気付きもしないとは……」
「では、誰が……」
フィランは、ブラッドほどの武術に優れてなくても、誰の恨みも買ってなかったはず。
すると、部屋の扉が開かれて、リラがやって来た。リラを抱き寄せるブラッド。二人の関係は一目瞭然だった。
驚いた私に、ブラッドが静かに犯人の名前を告げる。
「……」
「まさか……」
その名前を聞いてさらに驚いた。誰も疑わなかった。まさか、このために犯人を泳がせていたのだろうか。
「なぜ、あやつが……」
「だから、言ったでしょう。フィラン殿下が陛下と同じようなことをするからこんな出来事が起きるのですよ」
息ができなくなる。喉が焼ける様な痛みとともに血を吐いた。その様子を見ながら、ブラッドとリラは抱き合っていた。扇情的に、それでいて愛おしそうにリラを抱きしめるブラッド。
__ブラッドは死神。そして、そばで咲いた花のようなリラも同じ。
「英雄などハッキリ言ってなりたくはないが……最高のパフォーマンスだろうな」
ブラッドが、アギレア王国が攻めて来ると言えば間違いない。そして、ブラッド率いる騎士団は戦わない。確かに、近々アギレア王国の使者が来る。それが戦争の再開を絵図にしているなら……私たちは、戦争の始まりすら気づかずに敵を王城に招き入れた愚かな王と妃だ。
他の人間の発言なら、調べもする。間違いなく裏を取った。でも、この眼を持つブラッドだけは違う。
「もしそうなったら……」
「フィラン殿下の葬儀もまともに行われない。誰が失墜した王の子の葬儀を執り行うと思う。俺がそんな優しい人間に見えるか?」
フィランの葬儀でさえ、ブラッドにとっては駆け引きの材料なのだ。
フィランはたった一人の大事な息子だった。穏やかで可愛い私と陛下の大事な息子。フィランがいたから、陛下との関係も穏やかであった。
この国の陛下の子供で、唯一の王太子殿下だった。
そのフィランの葬儀すら危うくなっている。私の不貞がきっかけでブラッドに隙を作ってしまった。陛下は、アリアの想いブラッドを捨てなかった。
出生の怪しいブラッドを、あの戦で死んでくれと誰もが密かに望んだのに……。
「……陛下。終わりです……あなたがブラッドを王太子殿下になどお決めになるから……」
あの時点で、私たちはブラッドに支配されていたのだ。もう覆らない。いや、アリアを後宮に入れたせいで、こんな死神のような王子ができ上がってしまった。
「ふざけるな……っ、誰が……」
「でも、ブラッドを信じて何かの薬をお飲みになった。そうでしょう?」
どうして、アリアを後宮に入れたのだろうか。ベッドで何の抵抗も出来ない陛下に情けなくなる。誰も陛下に異を唱えない。情けない国。穏やかな国だった。でも、死神が王城を歩き回っていると気付かないほど安穏としてしまっていた。
陛下の初恋はアリアだった。その彼女の縁談の話を聞けば、縁談を邪魔するように後宮入りを決めた。私と結婚をしていながらも。そして、陛下の後宮に入っていた令嬢など、あのブラッドの父親であろう立場の人間が、他国の妾になったアリアを娶ることなどできるはずもなかった。
でも、今ならわかる。その頃には、恐らくブラッドを懐妊していたのだ。
「っ……」
「フィランが人知れず葬られるのは、耐えられません……私は、あの子の母親なのです。私たちがフィランにできることはもうこれが最後です」
最後を悟り、動けない陛下に毒杯を飲ませた。私でさえ押さえられるほどの力で抵抗は虚しく毒が陛下の喉に流れた。
私たちがフィランにできることは、もうこれしかない。子供を失墜した王の子として奉られたくない。死んでからでもだ。王太子殿下として死んだフィランを永遠に王太子の身分でいさせるには、今ここで私たちが終えるしかないのだ。
そして、ブラッドを一睨みして毒の飲んだ。
「犯人は、お前でなければ、やはりリラなの?」
「違う。何度もそう言った。犯人は、心臓を一突きにしていた。リラの持っていたナイフでは、届かない位置まで突き刺さったのだ。凶器はリラの持っていたナイフではない。明らかに、ナイフの大きさが違っていたことに気付きもしないとは……」
「では、誰が……」
フィランは、ブラッドほどの武術に優れてなくても、誰の恨みも買ってなかったはず。
すると、部屋の扉が開かれて、リラがやって来た。リラを抱き寄せるブラッド。二人の関係は一目瞭然だった。
驚いた私に、ブラッドが静かに犯人の名前を告げる。
「……」
「まさか……」
その名前を聞いてさらに驚いた。誰も疑わなかった。まさか、このために犯人を泳がせていたのだろうか。
「なぜ、あやつが……」
「だから、言ったでしょう。フィラン殿下が陛下と同じようなことをするからこんな出来事が起きるのですよ」
息ができなくなる。喉が焼ける様な痛みとともに血を吐いた。その様子を見ながら、ブラッドとリラは抱き合っていた。扇情的に、それでいて愛おしそうにリラを抱きしめるブラッド。
__ブラッドは死神。そして、そばで咲いた花のようなリラも同じ。