血に堕ちたライラックはウソにまみれている

第三十九話 都合のいいライラックの夢

 一斉にジェイド様を取り囲んでいた騎士たちがジェイド様を捕縛しようとした。



「リラーー!!」



 ジェイド様が叫ぶと、彼の身体の周りが霧のようなものに包まれてきた。この魔法だ。私が襲われた時も、自分の顔が見えないようにぼやけていた。



 周りの騎士たちが、ジェイド様の魔法で弾かれて吹き飛ぶ、すぐに彼らは態勢を立て直そうとする間に、ジェイド様が私に手を伸ばして飛び掛かろうとしていた。



「リラ。下がるんだ」



 ブラッド様が私を彼の背後に下げた。リカルドは、私を守るように一緒に後退した。



「魔法陣展開!」



 ブラッド様が指示すると、四方にいる周りの騎士たちが床に手をついて魔法を発動させると、床に施された魔封じの魔法陣が展開された。部屋で魔法が使えなくなり、ジェイド様の魔法が解かれると霧に包まれた彼の姿がハッキリと見える。

 ブラッド様が一瞬で腰の剣を抜くと、躊躇なく飛び掛かってくるジェイド様へと剣を突き刺した。

 ……呻き声一つ出さないジェイド様。ブラッド様がジェイド様から剣を抜くと、ジェイド様が胸から血を流してうつ伏せに倒れた。



「……リラ」



 血を流しながら、私の名前を呼ぶジェイド様の手の中からライラックのポプリが割れて転がっている。

 ブラッド様は、倒れたジェイド様を見下ろしながら剣の血を払い腰に剣を収めた。



「リラ……行かないで……」



 ジェイド様が弱々しく言う。最後の懇願だ。ジェイド様のナイフから発芽した植物はいつの間にか白い花まで咲かせていた。その花を一輪だけ取って彼のそばにそっと腰を下ろした。



「私の名前を呼ぶのは、これが最後よ」



 ジェイド様の目の前には、倒れた手のそばにライラックが血に染まっていた。その横に白い花を添えるように置いた。そうして、ジェイド様が瞼を閉じれば、一筋の涙が落ちた。







 ウソつきなリラ。

 声すらもう届かない。

 目の前には、リラと同じ名前、同じ髪色の紫色の花びらがある。血に染まったライラックとリラのような美しい白いカラーの花が視界に入った。

 リラと一緒の邸で住んで、迎えに出てくれる。リラの美しい顔を見て部屋へと帰り、ほのかに微笑む可愛いリラに恋焦がれた。

 リラはウソなどつかなくて、誰にも穢されてない綺麗なリラは、血まみれの男の手など取らなくて………だから、今も瞼を閉じれば穢れてないリラがいて……そうして、リラのポプリの香りに包まれて都合のいい夢を見ながら眠りについた。





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