血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第四十三話 前日譚 リラ
王妃様が多くの聖女たちを戦場へと送ってしまった。聖女は国に一人ではないといえども、決してその数は多くない。聖女神殿に残っている聖女は主に貴族の形だけの聖女たちばかりだ。何度も、大聖女様が力の弱い聖女はお返し下さいと訴えても、王妃様は国のために役に立つのは当然のことと言って聞く耳を持たない。
「リラ!」
廊下を不機嫌な様子で歩いていると、婚約者であるフィラン殿下が急いで追いかけて来た。
「……何か?」
「何か、ではない。母上と喧嘩をしたと聞いた。すぐに謝りに行ってくれ」
「なぜ、私が?」
「当たり前だ。母上の意見も無視して聖女たちや負傷兵などを迎えに行くなど……」
聖女たちを消耗品のように使う王妃様。それをおかしいとも思わないフィラン殿下。大事に育てられたフィラン殿下には、どれだけ聖女たちが涙を飲み込んで戦場へと送られたのか、わからないのだ。
「フィラン殿下。あなたは、お分かりにならないのですか? 本当なら、あなたが王妃様の意見するべきだったのですよ。戦場では兄上のブラッド様が前線に赴き指揮を取っていると言うのに……ご心配ではないのですか!?」
ブラッド様の名前を出されて、フィラン殿下が痛いところを突かれたようにハッとする。彼は昔から剣の腕も馬術もブラッド様の足元にも及ばなかった。そのせいか、ブラッド様に懐くことはなかった。
「私は……っ、兄上と違い内政に力を入れている」
「そうですか。でも、ブラッド様たちのおかげで私たちは何不自由なく過ごせることをお忘れないように。王都が平和なのは、すべて戦場で戦う騎士団のおかげです」
「だからといって、リラが迎えに行くなど……っ」
「フィラン殿下。私の意見は変わりません」
「だが、母上に逆らって、国の金で迎えに行くなど許されることでは……」
「国のお金など使えるわけないでしょう。王妃様は、私が迎えに行くことを反対しているのですよ」
王妃様が私の進言など聞き入れるわけもない。私は、自分のお金を使うのだ。
「だからといって……っ、我々は療養施設も作り、そこに負傷者を受け入れている。確かに、まだ数は足りないが……」
「あなたには、何を言ってもわからないようですね。確かに負傷者の療養施設はあります。でも、前線を引くことができて、王都に近い数少ない療養施設に入所できるのは、貴族の騎士たちだけです」
平民の騎士などは、いまだに前線に近いところから帰還することができない。そんなところで最後を迎えれば、平民のお金で引き取ることなどもできない。そんなことすら、フィラン殿下にはわからない。平民の騎士たちの親族のお金で、前線に近い治療施設などへと、どうやって旅費を工面して行けると言うのか。
「お金の心配はけっこうです。私が聖女たちや負傷者を迎えに行くのは、私の独断ですから」
そうやって、私はフィラン殿下が止めるのも聞かずに、自分のお金で馬車をいくつも工面して王都を飛び出した。
大聖女様すら巻き込めなかった。大聖女様も私に賛同したけど、聖女の発言力を奪った王妃様は大聖女様の意見すら聞かない。
大聖女様の地位を揺るがせるわけにはいかない。
だから、私の独断で行くのだ。せめて、私がいなくなった間にフィラン殿下が考えを改めていることを願って。
「リラ!」
廊下を不機嫌な様子で歩いていると、婚約者であるフィラン殿下が急いで追いかけて来た。
「……何か?」
「何か、ではない。母上と喧嘩をしたと聞いた。すぐに謝りに行ってくれ」
「なぜ、私が?」
「当たり前だ。母上の意見も無視して聖女たちや負傷兵などを迎えに行くなど……」
聖女たちを消耗品のように使う王妃様。それをおかしいとも思わないフィラン殿下。大事に育てられたフィラン殿下には、どれだけ聖女たちが涙を飲み込んで戦場へと送られたのか、わからないのだ。
「フィラン殿下。あなたは、お分かりにならないのですか? 本当なら、あなたが王妃様の意見するべきだったのですよ。戦場では兄上のブラッド様が前線に赴き指揮を取っていると言うのに……ご心配ではないのですか!?」
ブラッド様の名前を出されて、フィラン殿下が痛いところを突かれたようにハッとする。彼は昔から剣の腕も馬術もブラッド様の足元にも及ばなかった。そのせいか、ブラッド様に懐くことはなかった。
「私は……っ、兄上と違い内政に力を入れている」
「そうですか。でも、ブラッド様たちのおかげで私たちは何不自由なく過ごせることをお忘れないように。王都が平和なのは、すべて戦場で戦う騎士団のおかげです」
「だからといって、リラが迎えに行くなど……っ」
「フィラン殿下。私の意見は変わりません」
「だが、母上に逆らって、国の金で迎えに行くなど許されることでは……」
「国のお金など使えるわけないでしょう。王妃様は、私が迎えに行くことを反対しているのですよ」
王妃様が私の進言など聞き入れるわけもない。私は、自分のお金を使うのだ。
「だからといって……っ、我々は療養施設も作り、そこに負傷者を受け入れている。確かに、まだ数は足りないが……」
「あなたには、何を言ってもわからないようですね。確かに負傷者の療養施設はあります。でも、前線を引くことができて、王都に近い数少ない療養施設に入所できるのは、貴族の騎士たちだけです」
平民の騎士などは、いまだに前線に近いところから帰還することができない。そんなところで最後を迎えれば、平民のお金で引き取ることなどもできない。そんなことすら、フィラン殿下にはわからない。平民の騎士たちの親族のお金で、前線に近い治療施設などへと、どうやって旅費を工面して行けると言うのか。
「お金の心配はけっこうです。私が聖女たちや負傷者を迎えに行くのは、私の独断ですから」
そうやって、私はフィラン殿下が止めるのも聞かずに、自分のお金で馬車をいくつも工面して王都を飛び出した。
大聖女様すら巻き込めなかった。大聖女様も私に賛同したけど、聖女の発言力を奪った王妃様は大聖女様の意見すら聞かない。
大聖女様の地位を揺るがせるわけにはいかない。
だから、私の独断で行くのだ。せめて、私がいなくなった間にフィラン殿下が考えを改めていることを願って。