血に堕ちたライラックはウソにまみれている

第七話 花売りとポプリ

リーガの持ってきた花は籠いっぱいだ。でも、大きな花はない。形も整ってない花もある。

 先日、ジェイド様が下さったいつでも品評会に出せそうな薔薇とは違う。



「たくさんありますね……」

「まだ上手に育てられなくて……」

「いいのよ。そうね……飾っても可愛いけど、ポプリにでもしようかしら?」

「できますか?」

「乾燥させて好きな香りを付ければいいですからね……出来たら、リーガにも分けますね」

「下さるんですか?」

「もちろんです。こんなにあればたくさん作れますよ」

「嬉しいです。リラ様が作ったものなら、売れそうですね」

「売ったらお金になるのかしら?」

「なると思います。僕は花売りを継いだばかりで、まだまだですが……」



 両親を亡くしたリーガは、両親の残した花畑で自分で花を育てて売り子をしていると言う。



「でしたら、私がポプリを作るので、それをリーガが売るのはどうかしら?」

「僕がですか?」

「ええ、私は今はあまり(というかほとんどだけど)外には事情があって出られませんので、何も出来ないんです。それに、手持ちのお金もあまりなくて……でも、それなら毎日でもリーガにお金を払えますし……」



 おかげで、することがないとも言う。自分で犯人捜しをしたいけど、ジェイド様がどこに王妃の手があるかわからないというし……おかげで、外に出してくれない。

 こんな小さな子供が働いているのに、私はフィラン殿下殺害の犯人と疑われて、ブラッド様に助けられて、ジェイド様の庇護下にいる。



「じゃあ、お仕事仲間ですか?」

「そうね。二人で花売りとポプリ作りという商売になるのかしら? 売るのはリーガにお任せになりますが……」

「嬉しいです。そしたら、毎日リラ様に会えますね」



 小さな商売が成立した瞬間のようで、お互いに微笑んだ。



「リラ!」



 リーガの持ってきた色とりどりの花を触れながら見ていると、ガゼボにジェイド様が向かってきた。

 立ち上がってジェイド様を迎え入れると、彼は嬉しそうにやって来た。



「ジェイド様。今日は領地を回るとおっしゃっていたのに……すみません。お迎えにも出ずに」

「いいんだ。リラに会いたくて急いで帰って来たんだ」

「まぁ」

「こちらは?」

「花売りの子供です。リーガという子で……お花を買うことにしましたの」

「そうなのか。だが、ケイナたちはどこだ? 一人だと危ないだろう?」



 きょろきょろとジェイド様が辺りを見回す。



「ジェイド様。大丈夫ですよ。フェアラート公爵邸は安全です」



 ここ数日過ごしても、不審者など現れなかった。むしろ至れり尽くせりだ。ジェイド様は優しいし、使用人たちもみんな優しい。



「それに、ケイナたちには、お菓子を頼んだんです。もうすぐで来ると思いますよ」

「お菓子?」

「はい。小さな花売りさんにご馳走しようと思いまして……ジェイド様もご一緒しませんか? 私は、今のうちに何か売れそうなものを部屋から取ってきます」



 私は、無一文で来ましたからね。



「気にすることは無い。欲しいのなら、俺が買おう」

「お花をですか? ケイナもそう言ってましたけど……」

「欲しいのでしょう?」

「はい。では、ポプリが出来たら、ジェイド様にもお渡ししますね」

「ポプリ?」

「はい。こちらの花をポプリにしようと、リーガと話していたんです。お部屋に置いたら、きっといい匂いがしますよ? ジェイド様はどんな香りがいいですか?」

 

 嬉しそうに目の下を紅潮させて口元を隠すジェイド様。ずいぶんと嬉しいらしい。



「楽しみだ。すぐに全部買おう」

「心配しなくても、籠ごと買いますから……ああ、ケイナたちが来ました。リーガ。お菓子を食べましょう。ジェイド様はそちらにどうぞ」



 そう言って、ケイナたちに手を振ってガゼボに招いた。











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