血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第八話 冷たい血と脆弱なアイリス 1
フィラン殿下が死んでしまった。もうすぐで、私は妃殿下になるところだったのに……。
「なぜ、あんな時にフィラン殿下の私室へと行ったのだ!! アイリス!!」
バンッと、書斎中に響くほどの音で、お父様が書斎机を叩いた。
「殺人事件が起きているなど知らなかったのです! それに、フィラン殿下とは、よくの時間に会っていて……」
泣きそうな感情を抑える様に顔を覆って叫んだ。
彼が暗殺されて絶命しているなど知らなかった。暗殺されたフィラン殿下と倒れていたのは、元婚約者のリラ・リズウェル伯爵令嬢。そして、それを一番に発見したのは、私__アイリス・ウィンシュルト公爵令嬢だった。そのせいで、第一発見者の私は、ブラッド殿下率いる騎士団に聴取を受けた。ウィンシュルト公爵令嬢だと言って、お父様がすぐに迎えに来てくれなければ、拘留されていたかもしれない。
すでに、フィラン殿下暗殺は国中に知れ渡りつつある。でも、あんな恐ろしい事件など、私は関わってない。
それでも、ブラッド殿下は私を見過ごしはしない。
フィラン殿下と私は、リラ・リズウェル伯爵令嬢のことで、喧嘩をしていたからだ。彼女と別れて私と婚約したくせに、フィラン殿下はリラを諦めなかった。
すでに純潔など怪しい令嬢であるのに、フィラン殿下はあろうことか、リラを後宮に入れると言い出したのだ。
私が何を訴えても、フィラン殿下は聞き入れなかった。『リラを捨てられない』と言って。そのうえ、喧嘩が続けば続くほど、彼は私を避けるようになっていった。
そして、『婚約破棄をするんじゃなかった』。フィラン殿下は、死ぬ前日に言ったのだ。
婚約破棄をするために、ずっとリラを避けていたのに……。
でも、もう婚約をリラから私に変えてしまい、陛下にも認められていたためにリラを婚約者に戻すことは叶わなかった。
フィラン殿下が考え付いたのは、リラを後宮入りさせることだった。結婚もしてないのに、リラを後宮に入れるなど、私には許せるものではなかった。でも、フィラン殿下が言うことは、変えられない。彼に甘い陛下も王妃様も私の味方をしてくれる自信がなかった。
ウィンシュルト公爵であるお父様が、フィラン殿下に進言しても、鬱陶しく思われるだけだった。
珍しいライラック色の髪に、神秘的で怪しさを纏うライラック色の瞳。誰もがリラを美しく、小柄な彼女を可愛いと言う。
フィラン殿下は、リラが知らぬ男に襲われたことを知り怒っていたのに、結局そんな彼女が忘れなくて……私が、一時の浮気だったのだ。
リラが大嫌い。そのまま、処刑されればよかったのに、ブラッド殿下がどこかに隠してしまった。
『リラは無実だ』と言って……。
お父様ですら、リラの居場所は知らされていない。
「何とかして犯人を見つけないと、どうなるか……」
お父様が呟く。
私がどうなるか。そして、私がフィラン殿下暗殺に関わったと濡れ衣を着せられたら、ウィンシュルト公爵家は終わりだ。陛下も、親族である王妃様だって許しはしない。フィラン殿下は、二人に愛されていたのだ。
ブラッド殿下と違って……。
「お、お待ちください! 旦那様は、すぐにお呼びいたしますので!」
「下がれ。公爵が在宅なのは知っている」
廊下が騒がしい。お父様は怪訝な面持ちで、奥歯をかみ締めた。
「なぜ、あんな時にフィラン殿下の私室へと行ったのだ!! アイリス!!」
バンッと、書斎中に響くほどの音で、お父様が書斎机を叩いた。
「殺人事件が起きているなど知らなかったのです! それに、フィラン殿下とは、よくの時間に会っていて……」
泣きそうな感情を抑える様に顔を覆って叫んだ。
彼が暗殺されて絶命しているなど知らなかった。暗殺されたフィラン殿下と倒れていたのは、元婚約者のリラ・リズウェル伯爵令嬢。そして、それを一番に発見したのは、私__アイリス・ウィンシュルト公爵令嬢だった。そのせいで、第一発見者の私は、ブラッド殿下率いる騎士団に聴取を受けた。ウィンシュルト公爵令嬢だと言って、お父様がすぐに迎えに来てくれなければ、拘留されていたかもしれない。
すでに、フィラン殿下暗殺は国中に知れ渡りつつある。でも、あんな恐ろしい事件など、私は関わってない。
それでも、ブラッド殿下は私を見過ごしはしない。
フィラン殿下と私は、リラ・リズウェル伯爵令嬢のことで、喧嘩をしていたからだ。彼女と別れて私と婚約したくせに、フィラン殿下はリラを諦めなかった。
すでに純潔など怪しい令嬢であるのに、フィラン殿下はあろうことか、リラを後宮に入れると言い出したのだ。
私が何を訴えても、フィラン殿下は聞き入れなかった。『リラを捨てられない』と言って。そのうえ、喧嘩が続けば続くほど、彼は私を避けるようになっていった。
そして、『婚約破棄をするんじゃなかった』。フィラン殿下は、死ぬ前日に言ったのだ。
婚約破棄をするために、ずっとリラを避けていたのに……。
でも、もう婚約をリラから私に変えてしまい、陛下にも認められていたためにリラを婚約者に戻すことは叶わなかった。
フィラン殿下が考え付いたのは、リラを後宮入りさせることだった。結婚もしてないのに、リラを後宮に入れるなど、私には許せるものではなかった。でも、フィラン殿下が言うことは、変えられない。彼に甘い陛下も王妃様も私の味方をしてくれる自信がなかった。
ウィンシュルト公爵であるお父様が、フィラン殿下に進言しても、鬱陶しく思われるだけだった。
珍しいライラック色の髪に、神秘的で怪しさを纏うライラック色の瞳。誰もがリラを美しく、小柄な彼女を可愛いと言う。
フィラン殿下は、リラが知らぬ男に襲われたことを知り怒っていたのに、結局そんな彼女が忘れなくて……私が、一時の浮気だったのだ。
リラが大嫌い。そのまま、処刑されればよかったのに、ブラッド殿下がどこかに隠してしまった。
『リラは無実だ』と言って……。
お父様ですら、リラの居場所は知らされていない。
「何とかして犯人を見つけないと、どうなるか……」
お父様が呟く。
私がどうなるか。そして、私がフィラン殿下暗殺に関わったと濡れ衣を着せられたら、ウィンシュルト公爵家は終わりだ。陛下も、親族である王妃様だって許しはしない。フィラン殿下は、二人に愛されていたのだ。
ブラッド殿下と違って……。
「お、お待ちください! 旦那様は、すぐにお呼びいたしますので!」
「下がれ。公爵が在宅なのは知っている」
廊下が騒がしい。お父様は怪訝な面持ちで、奥歯をかみ締めた。