我が手の中に花束を~この花さしてあげよ~
1話目

本編





小さい頃から私にはふたつの記憶がある。五十嵐千春と言う今の記憶と、今井昴と言う前世の記憶。


五十嵐千春として生きるこの世界は【この華さしてあげよう】と言う乙女ゲームでなんと、攻略対象者が14人で、10人中10人がプレイしても同じルートを辿ることなく、同じ攻略者をプレイしても同じエンドを迎える訳でもない、底なし沼のような乙女ゲームである。つまり何が言いたいかと言えば…………飽きのこない沼。



まぁ、そんなことは置いておいて。五十嵐千春は姉の五十嵐葵と対象者の好感度をあげるためのキャラであり、姉のルート次第で私は五十嵐 葵と間違えられ、知らない倉庫で暴力を振るわれ、精神的に病んで姉のお荷物になること確定のキャラである。何故、好感度が上がるかと言えば、病んでる妹を心身共に支えるいいお姉ちゃん。と言う要素が【一部の】攻略対象者には評判だからである。


一部の攻略対象者の好感度をあげる為に私は好感度をあげる道具になる気は無い!!と、姉と間違えられないように変装することにしたのだ。



【この華さしてあげよう】の舞台になる、此 華 咲 夜(このはなさくや)学園に今日入学する。


丸い厚底メガネに真面目ちゃんを思わせるおさげ頭に此華咲夜学園の制服は着崩してこそ美しいのに、びっしりと着崩すことなく着てスカートは膝下。よし、真面目ちゃんスタイル。と全身鏡の前でくるりと周り笑みを浮かべる。


二階から降りてリビングに入ればお姉ちゃんが私を見て驚いた顔で立ち上がり、私に駆け寄ってくる。



「ど、どどどどうしたのそのかっこ!?え、なんで!?な、なんでそんな地味なっ…………え!?えっ!?うそ、なんで…………」



私の腕を掴んで前後に揺するお姉ちゃん。そんなに驚くことかなぁ?と苦笑すれば驚くよ!?と私を見つめる。



「え、やめなよ……千春ちゃん、私に似て可愛いんだから!」


「お姉ちゃんには負けちゃうよ…………」


「あたりまえじゃん。え、でもでもほんとどうして!?千春ちゃんえ、それで学園に入るの?」


え、あたりまえじゃん?って言った?気のせい?なんて思いつつ、学園生活はこの姿で過ごそうと思うの……へんだし地味だし……お姉ちゃんには迷惑かけるかもだけど……。と言えばお姉ちゃんは口つぐんで、やっぱりダメ!!と私のメガネを外そうと手を伸ばしてくるが、お姉ちゃんの腕を掴んで止める。



「眼鏡を外さないで」


「はっ…………」



お姉ちゃんは私を見ていらただしげに乾いた声で笑う。



「う、うぅん。迷惑だなんて思ってないよ!私に似て可愛いから、隠した方がいいよね!うん。そうだよ!私見たいに目立っちゃダメだからね!うんうん。安心で安全だー!」



なんて、顔をひきつらせる姉に首を傾げながら私は席について朝食を食べた。



_________


お姉ちゃんと此華咲夜学園の門をくぐる。お姉ちゃんは有名らしく、葵さんだー!とか、相変わらずお綺麗で可愛いわー。とか聞こえてくる。


注目を浴びながら、千春ちゃん、ちーちゃん!と話しかけてくるお姉ちゃんに、周り一体がざわついた。あの子が五十嵐先輩の妹さん?だとか、あんな地味な子が五十嵐さんの妹だなんて五十嵐さんが可哀想だとか…………


色んな言葉が聞こえてくるが、私は気にせず体育館の前まで送ってくれたお姉ちゃんにお礼を言って手を離そうとしたが……何故か、手を離してくれないお姉ちゃん。



「お姉ちゃん?」


「いい、千春。絶対に入学式サボっちゃダメだからね。お姉ちゃんと約束して。お姉ちゃんの邪魔はしません。って…………」


「お姉ちゃん?体調悪い?朝からなんか変だよ…………」


「変なのは千春だよ。なんで、そんなかっこするの?なんで、お姉ちゃんとそっくりでいてくれないの!?お姉ちゃんのためにっ…………ごめん、千春ちゃん……」



お姉ちゃんのために……なに?と聞き返そうも気まずそうにするお姉ちゃんに私はかける言葉がなく。とにかく、入学式はちゃんと出ること!!といい去っていくお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんのせを見送りながらも私は首を傾げて、お姉ちゃんに握りしめられていた手を見れば少し赤くなっていた…………












< 1 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop