高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「そうなんですね!
主人は“みんなに”優しい人なので…!」

「えぇ!」

「………」

「………」

「あ…あまりお仕事の邪魔してもいけませんね(笑)
では、私は失礼させていただきますね!
わざわざ、ありがとうございました!」

“とてもじゃないが、こんな所にはいられない”
そう思った依鈴。

トクダに弁当を渡し、微笑み言ったのだった。


会社を出て、依鈴は人気のない所へ隠れるように向かった。

「はぁはぁはぁ…」
(ヤバい…理性が保てない…!!)

嫉妬心なのか、マウントを取られた怒りなのかわからないが、とにかく頭に血が上っていて苦しい。

依鈴は、弟の依音(いおん)に電話をかけた。

『――――――姉様?どうしたの?』

「依音!すぐに来て!!」

『は?』

「いいから!!
私の言う事聞けないの!!?」
 

数十分後………
依鈴が指示した駅裏に、バイクが近づいてきた。

依鈴の前で止まり、ヘルメットを外した依音。
「人使い荒いよ!」

「うるせぇよ。
とにかく!
気分転換したいの。
何処でも良いから、走らせて?」
そう言いながら、依音の後ろに跨がった。

しばらく走らせて、人気のない公園で停まった。
「――――そんなの、聞き流しなよ!
へぇー、そうなんですね〜って!」

「それが出来たら、今頃私は普通の令嬢でいられたわよ!!
おしとやかで、清らかな…ね!(笑)」

「でも!
その秘書がどんなマウントを取っても、お義兄さんが愛してんのは、姉様だろ?」

「え?」

「姉様がどうとかじゃなくて、お義兄さんが選んだのは姉様!
大事なのは、それだけ!!」

「でも!秀一郎さんが愛してんのは“うわべだけの依鈴”
本当の私じゃない!」

「だったら!
あんな程度、聞き流せるくらいになりなよ!」

「………わかってるわよ…」

「姉様、どっちかしかないよ?
“誰に何を言われても、仮面を被り続ける”か“本性をさらけ出して、真正面から向き合う”か!!」

「わかってる!!」

「………」

「………」

「………」

「………」

「…………姉様」
しばらく沈黙が続いて、依音がポツリと言った。

「あ?なんだよ」

「俺はずっと、姉様の味方だから」

「………え…依音…」
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