高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「父さんと母さんは、姉様に“理想の令嬢”を押しつけてた。
それこそ、高貴で、おしとやかで、清らかな令嬢。
でも本当の姉様は違う。
口が悪くて、傲慢。
でも………美人で、真っ直ぐで、嘘なんかつけない。
大切な人のためなら真正面から戦う、強くて、カッコいい人。
俺にとって姉様は“自慢”だよ!」

「依音…
ありがと!」

「ん。
―――――――でもさ!」

「ん?」

「急に呼び出すのは、どうにかしてよ!!
今だって、友達と遊んでたのを抜けて来たんだから!!」

「あー、ごめん」

「………」

「何よ」

「………そう、思ってないよな?」

「は?思ってるよ」

「そう思ってる顔してない」

「どんな顔よ」

「“はぁ!?お姉様に逆らうな!”って顔」

「フッ…」

「…………フッ…まぁ、いいけど(笑)」

「依音」

「ん?」

「ありがと!
良い弟持って良かった!
私にとっても、依音は自慢の弟よ!!」

「フフ…!
ほら、帰ろ?」

二人は微笑み合い、バイクに跨がった。


一方の秀一郎。
会議が終わり、スマホを操作していた。

【今、会社前に着きました^⁠_⁠^
出てこられますか?】

依鈴からメッセージが入っていた。

【連絡がないようなので、受付の方にお弁当渡しておきますね!
お休みの日まで、お仕事お疲れ様です!】

慌てて、依鈴に電話をかける。
しかし、電話に出てくれない。

(僕が連絡取れなかったから、怒ってる?
いや、依鈴はそんな人じゃない。
優しくて、純粋な人だ)

「とりあえず、受付に弁当取りに行かないと……」
そう呟き社長室を出ようとすると、タイミング良くトクダが入ってきた。

「失礼します。
奥様からお弁当を預かりました!」

「………」
(は?なんで、こいつが受け取ってんの!?)

「社長?」

「………あ、どうして君が?」

「受付からの連絡を受けたので。
社長は、会議中でしたし…」

「そう…
とりあえず、ちょうだい?」

トクダから受け取る。
その弁当を、大切そうに包み込んだ。

「………」
その秀一郎の表情を見て、トクダが固まる。

「………何?」

「え…あ…」

「君、もういいよ」

「あ、は、はい…」 

「………」

「………」

「……………
…………綺麗でしょ?」
トボトボと、社長室を出ようとするトクダの背中に声をかける、秀一郎。

「え?」
思わず振り返る。

「僕の奥さん」

「え?え、えぇ…」

「見た目も綺麗だけど、心もとっても綺麗なんだ!
ピュアな僕の天使…!」 

「………でも…!!」

「ん?」


「そんなのわかんないですよ?」
トクダは、少しムッとして言った。
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