高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「フフ…はい!
でも私が心配してるのは、秀一郎さんの身体のことですよ?」

「え?」

「最近、休日出勤が多いでしょ?
秀一郎さん、体調崩さないかなって……」

「………ほんと…君は、僕にはもったいないくらい素敵な女性だね…!」
(愛しすぎて、益々閉じ込めたくなる……!)

「フフ…ありがとうございます!
でも秀一郎さんこそ、とっても素敵な男性ですよ!」 
(私はこんな女だし…(笑))


それから―――――自宅にベッドが届いた。

男性と女性の配達員が来た。
「○○家具でーす! 
まずは、ベッドの引き取りからしますね!」

「はい、よろしくお願いします!」
秀一郎が対応し、寝室に誘導する。

秀一郎と依鈴のベッドが運ばれていく。

「………」
それを依鈴はただ…無言で見つめていた。

「依鈴?どうしたの?寂しい?(笑)」

「え?あ…」

「あのベッドは依鈴がずっと使ってた物だもんね!」

「あ、はい」
依鈴は切なく微笑みながら、全く違うことを考えていた。

私と秀一郎さんの聖域に“他人がいる”

そのことに、言いようのない嫌悪感が込み上がっていた。

(あの辺、明日念入りに掃除しないと!
寝室は特に綺麗に掃除しないとな!
あー、そんなとこ必要以上に触んじゃねぇよ!)

潔癖なわけではない。
でもここに秀一郎と自分以外がいることが、不潔で不快だ。

依鈴は、秀一郎に抱きついた。
(もう、見ないようにしよう…
イライラが止まらなくなる)

「依鈴?
大丈夫だよ!
また、新しいベッドで思い出作ろう?」


ベッドの設置が終わり、女性配達員が伝票を持ってきた。
「今、設置が終了しました!
こちらにサインをお願いします!」

「はい」
秀一郎がサインをする。

その間依鈴は、冷蔵庫から有名スイーツ店の箱を取り出した。
「今日は、ありがとうございました!
これ、良かったらどうぞ?」

「え!?
い、いえ!貰えません!」

「そんな事言わずに、お暑い中大変だったでしょ?
受け取ってください!」
(つか、早くこれ持って出ていけよ!)

「でも…」

「どうぞ?
せっかく妻が買ってきたので、受け取ってやってください!」
(依鈴の気持ちを無下にすんじゃねぇ!)


((つか、早く出てけよ!!!))

二人は、同じように心の中で毒を吐いていた。
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