高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「痛い?」
さすりながら、心配そうに見上げる。

「少し…でも、大丈夫ですよ!」
依鈴は、心配かけないように微笑んだ。

「強がらないで?
可哀想に…本当は痛いよね?」 

「フフ…秀一郎さんによしよししてもらうと、痛みが和らぎます!」

「そっか!
じゃあ…ずっと、よしよししててあげるよ!
“痛いの痛いの飛んでけ〜”って!(笑)」

「フフ…ありがとうございます!
でも、温かい内に朝食食べていただきたいので、もう大丈夫ですよ?」

クスクス笑う依鈴に、秀一郎も微笑む。
そして声を揃えて“いただきます!”を言い、食べ始める。

「―――――依鈴」
向かいの依鈴を見据える、秀一郎。

「はい」

「やっぱり、家政婦を雇おう!」

「え?」 

「この前も、怪我してたよね?
僕のカッターシャツをアイロンかけてて、ヤケドしたでしょ?
もう…これ以上、君を傷つけたくない…!」
(面倒なことは全て使用人にさせて、依鈴はこの屋敷で、僕だけを想って、僕だけに囲われて愛される生活を送ればいいんだ!)

そして、切ない表情で依鈴を見つめた。

「お気持ちは、とても嬉しいです!
でも、私は秀一郎さんの妻ですよ?
私が秀一郎さんを支えたいんです!
頼りないですが、私にさせてください!
これ以上、ご心配かけないように気を引き締めますから!」
(いやいや、この私と秀一郎さんだけの聖域に他人を入れるなんてあり得ない!
しかも、私の秀一郎さんの口に私以外の人間が手を加えた物を入れるなんて……!
秀一郎さんが穢れてしまう!)

互いに本音を隠し、言い合う。

「君がそこまで言うなら…
でも、無理はしないで?
依鈴は家政婦じゃなくて“僕の奥さん”なんだからね?」

「フフ…はい!」


食事が済み――――秀一郎は準備をして、キッチンで片付けている依鈴に声をかけた。

「依鈴、行ってくるね!」

「はい!
これ、お弁当です!
また感想聞かせてください!」

「ありがとう!
食べたらすぐに連絡するね!」

「そのお気持ちはとても嬉しいですけど、無理はなさらないでくださいね?
帰ってこられてからでも、十分ですから!」

「だって、依鈴の声が聞きたいから…!」

秀一郎の言葉に、依鈴はポッと顔を赤らめた。
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