高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「依鈴さん、こんにちわ!
僕のことわかりますか?」

「………パーティーで一度…お会いしたような…」
(私がぶっ叩いた奴だ…!)

「はい!
サガミと申します!」

「あ、サガミさん。
こんにちわ」
(つか、帰れよ。
今、秀一郎さんとの時間なんだよ!)

「ねぇ!」
そこに、秀一郎が割って入ってきた。

「あ、すみません!
俺、サガミと言います!
依鈴さんのお父様とは、仕事で何度か関わらせていただいていて……
今回、旦那様にもご挨拶をと…」

「そう。
でも、今やっと一段落ついて休憩中なんだ。
さっきから、ずっと立ちっぱなしでね…
妻を休ませたい。
悪いんだけど、お引き取り願える?」
(サガミか…
確か、部品メーカーの奴だよな…)

「あ、そうですよね!
依鈴さんをお見かけしたので、ご挨拶をと…
申し訳ありません!
――――――――」

秀一郎に丁寧に頭を下げ、依鈴に耳打ちをして去っていった。

意味深に微笑みながら………

(ヤバい…
あいつも、私の本性知ってるんだった!)


依鈴が大学二年の時――――

二十歳の誕生日祝いのパーティーに、サガミも来ていた。

その時にやたら声をかけてきて、セクハラのようなことまでされたのだ。

ただ話しかけるだけならまだしも、腰を抱いてきたり、人気のない所へ連れて行こうとしたりされ、つい…依鈴がブチ切れ、おもいきり殴ったのだ。

その場には依音もいて、なんとか上手くフォローしてくれたので収まったが、散々な目に遭ったのだ。  


『化けの皮、剥がれないように気をつけてくださいね……!』

サガミが先程、耳打ちしてきた言葉だ。


(………どうしよう…
あいつが秀一郎さんにバラしたりしないよね?
他の奴等はどうでもいいけど、秀一郎さんにだけは知られたくない。
そうなったら、どうやって切り抜けたらいいのー?
依音はいないし……)

依鈴は、スカートをギュッと握りしめていた。


その様子を遠目から見ながら、意味深に笑っている、サガミ。

そんなサガミに、ある人物が話しかけてきた。

「こんにちわ!」

「ん?君、は?」

「私、蒲郡社長の秘書をしてます、トクダです。
奥様とはどのような知り合いなんですか?
なんか、意味深でしたが……」

興味津々というふうなトクダの態度に、サガミはクスクス笑い、依鈴の二十歳の頃のパーティーのことや本性を暴露したのだ。
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