高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
気持ちを落ち着かせ、会場に戻った秀一郎と依鈴。

「何か軽く食べようか?」

秀一郎に言われ、頷く依鈴。
たくさんの料理が並んでいるテーブルに向かう。

「依鈴、何がいい?
取ってあげる!」

「え?い、いいですよぉ!
それは、私が………」

「いいから!」

「じゃあ…サンドイッチを…」

「ん!
…………はい!どうぞ?」

「ありがとうございます!」
(ほんと、素敵な人……!)

惚れ惚れしながら、皿を受け取る。
秀一郎も取り、テーブルへ向かった。

「美味しいね!」
と話しながら、仲良く食べる。

依鈴は秀一郎に見惚れ、秀一郎も見惚れていた。

二人だけの空間のように、穏やかに時間が過ぎていく。


すると………

バシャッ…!!!
と、突然頭から何かが降ってきた。

「え……」

「依鈴!!?」

ポタポタ落ちているのは、赤いワイン。

依鈴は、何が起きたかわからない。
ただ…ぼう然と立ち尽くす。

慌てて秀一郎がハンカチを取り出し、依鈴の顔や頭を拭く。
「依鈴!大丈夫!!?」

「………」
(は?なんなの、これ……)

すると、女性が「すみません!!!ちょっと酔って足がもつれてしまって……!!」

「あ…」
(こいつ…!!?)

トクダだった―――――――

(あぁ…わざとか……)

依鈴は、何故か冷静にそんなことを思った。

「奥様、申し訳ありません!!!」

「いえ…大丈夫ですよ?」

頭の中は、沸騰しそうなくらい熱く煮えたぎっている。

しかし依鈴は、必死に自分に言い聞かせる。

(冷静に…冷静に……)と。

「で、でも……
せっかくのドレスが……」

「洗えば良いことですし」
(つか、とっとと消えろよ)

「とりあえず、化粧室へ……!!」

トクダに連れられ、トイレに向かった。

そして……
トイレに着いた途端。

フフ…フフフ……!!!

トクダが笑い出した。

「………え?」
固まる依鈴。

トクダは、腹を抱えて笑っている。

「はっきり言ったらどうですかぁー?
“何すんだよ!!”って!」

「………は?」

「だってぇー“わざと”ってわかってますよね?(笑)」

「………」

「奥様って、そーとーな性格“ブス”だったんですね〜」


トクダの笑顔が、悪魔のように見える。

「きたねぇ…顔…」
思わず依鈴の口から、ポツリと言葉が出た。
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