高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
「は?きたねぇのはどっちだよ!!
社長を騙して、まんまと妻の席に収まりやがって!!」

「は?
騙した?」

「えぇ、そうよ!!
誠実で、賢くて、物腰の柔らかい紳士。
そんな社長を騙して、あんたは妻になった!
最、低!!!」

「………」



その頃秀一郎は会場で、依鈴が戻るのを待っていた。

ドアを切なく見つめ、ただ…依鈴が戻るのを待つ。

「………」
(依鈴、大丈夫かな?)

トクダに何かされてるんじゃ……

何故か秀一郎は、そんな思いに支配されていた。

秀一郎は会場を出て、トイレの方に向かった。


「―――――ねぇ!!
離婚しなさいよ!!!」

「は?なんで?」

「はぁ?
あんた、そのきったない皮、被り続けていけると思ってんの!!?」

「被り続けるつもりだけど」

「てゆーか!
社長を傷つけてるって、心が痛まないの…!!?」

「え?」
(秀一郎さんを…?
傷つけてる……?)

「社長は、汚い皮を被ったあんたを信じてんのよ!?
“ピュアな僕の天使”って!!」

「………」
(そんなふうに、考えたことなかった)

依鈴は、その言葉にたじろいだ。

確かにそうかもしれない。
本性を偽って、秀一郎と接している依鈴。

でも……

(別れたくない…!!
…………つか、なんでこいつにこんなことを言われないとならないの?)

確かに秀一郎と出逢ったあの時に、ちゃんと本性をさらけ出していれば良かったのかもしれない。

そうすれば、秀一郎を傷つけずに済んだ。



『――――初めまして!
蒲郡 秀一郎です!
依鈴さん、思った通り可愛らしい方だ……!』

あの日、あの時……一瞬で恋に落ちた。

“私は、この方に出逢うために生きてきた”

そう思える程の想い。

まさに“運命の相手”

嫌われたくない。
好きになってほしい……!

そんな想いに支配された。

だからこそ……さらけ出すなんて、どうしても出来なかったのだ。


「…………はぁ…」
依鈴は、ゆっくり息を吐いた。

「は?あんた、聞いてるの!?」

「………でももう…いいや…」

そして、ポツリと呟いた。

髪飾りを取り、頭を横に振る。
パサッ…と、髪が落ちた。

「え―――――」

ゆっくりトクダに近づき、手を振り上げた。
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