高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
駐車場の秀一郎の車の中。
秀一郎の悶絶する声が響いている。

「あぁぁぁーーー!!!
可愛すぎぃぃぃーーー!!!
なんだ、あの照れたような表情は!!
ダメだ……仕事に行きたくない。
このまま依鈴と一緒に部屋に閉じ籠もって、依鈴をめちゃくちゃに愛したい…!!!」

あの後、平静を装って家を出た秀一郎。
車に乗り込んだ途端、悶絶して溢れる気持ちを吐き出していた。

その後なんとか気持ちを落ち着けて、やっと車を走らせた。

一方の依鈴も、溢れる気持ちを吐き出していた。

「カッコ良すぎる!!
カッコ良すぎて、心臓が痛い。
カッコ良すぎるから、部下達に嫌がらせとかされないかな…
いや、嫌がらせどころか、女どもに襲われるかも!?
結構、汚い女が多いし…
はぁ…その女どもに釘を刺しに行こうかな?
…………いや、でも…その事が秀一郎さんに知られたら、確実に嫌われるわよね……」

依鈴は自問自答を繰り返し、なんとか気持ちを落ち着けて、家事を再開した。


会社に着いた、秀一郎。
秀一郎は父親を幼い頃に亡くし、祖父に「大学を卒業したら跡を継げ」と言われて生きてきた。

その言葉通り、大学卒業して一年間祖父に経営者として色々叩き込まれた。

そしてわすが23歳で大企業の社長になり、親以上も年上の幹部達にバカにされないように努力してきた。

秀一郎は依鈴との出逢いは、必死に仕事だけを頑張ってきた自分へのご褒美だと思っている。

「おはよう!」
爽やかな雰囲気を醸し出して、挨拶をする。

「おはようございますっ!」
「おはようございます!」
「おはようございまーす!」

社員達も、元気よく挨拶してきた。

仕事に取りかかりながらも、頭の中は依鈴のことでいっぱいな秀一郎。

それでも、器用に仕事をこなしていく。

社長に就任して7年。
今は幹部達にも認められ、充実した仕事が出来ている。

しかし………

(あぁ…依鈴に会いたい…!! 
会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!
電話して、声だけでも聞こうか?
…………いやいや、今は僕のために家事を頑張ってくれてるに違いない!
そんな時に、邪魔は出来ない。
それに、ちゃんと仕事してないと思われるかもしれない。
依鈴にだけは、嫌われたくない……!
やっと見つけた、僕の天使なんだから!)

依鈴への狂おしい程の想いに溺れそうになっていた。
そこへ……
「社長、失礼します!」

「あ…」
(来た…)

それと、あともう一つ……

充実した仕事中。
もう一つの厄介なことがある。
< 3 / 31 >

この作品をシェア

pagetop