高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
女性秘書が入ってきた。

「社長。
○○商事の△△様より、例の件“承知しました”との連絡がありました!」

「そう、よかった!」

「あと、社長」

「ん?」
(なんだよ、まだなんかあんのかよ…!!)
微笑み返事しながらも、心の中では“伝達が済んだら早く出てけよ”と思っていた。

「ちょっと、相談がありまして…
就業後、少しお時間をいただけませんか?」

「んー、相談は今聞くよ」

「あ…」

「ごめんね。仕事終わったら、すぐに家に帰りたいんだ!
妻に寂しい思いをさせたくないからね」

「そうですよね…
じゃあ…また後日で大丈夫です!
ここでは、話しづらいことですし…」

「そう?
ごめんね」

「いえ!
では、失礼しました!」

丁寧に頭を下げ、秘書が出ていった。

「チッ…ほんと、ウゼェな…」
舌打ちをして、仕事に戻る。

最近この女性秘書が、仕事以外でなにかと声をかけてくるのだ。
依鈴と出逢ってからの秀一郎は、依鈴以外の人間と話すどころか、視界に入ることでさえ嫌悪感を感じるようになっていた。

一度、一蹴してもいいのだが、いつどんな形で依鈴の耳に入るとも限らない。

だから、いつも物腰の柔らかい紳士を演じているのだ。


一方の依鈴は、買い物に出掛けていた。 

秀一郎の身になる物は、全て洗練されたものでなければならない。
セレブ御用達のスーパーへ行き、厳選した食材を購入する。

「しかし、奥様自らいらっしゃるとは…!!
蒲郡様クラスだと、家事は家政婦とかに頼むんじゃないんですか?」
スーパーの近くにある、精肉店の店主が言う。

「えぇ!
でも、主人のために出来ることは何でもしたいんです!」
(当たり前よ!!
秀一郎さんの身の回りのお世話よ!!
誰にもさせないわ!!)

「やはり、素晴らしい人だなぁ〜!
容姿が美しいだけでなく、内面まで…!!」

「フフ…やめてください/////
あまり褒められると、恥ずかしいです//////」
(つか、早く肉よこせよ!!
お前みたいなオヤジと話してられる程、暇じゃねぇんだよ!!)

「ほんと、何もかも美しい人だ!!
俺の家内と一日でいいから代わってもらいたいくらいですよ!(笑)」

「フフ…またまたぁ、そんなことを言って!
奥様を大事にしないとダメですよ!(笑)」
(はぁぁ!!?
なんでこの私が、お前みたいなオヤジの嫁しないとなんねぇんだよ!!
分を弁えろ!!身分を!!)

「フフ…!冗談ですよ!(笑)
はい、フィレと牛200と黒豚200ね!
少し、多めに入れてますから!(笑)」

「わぁ~!ありがとうございます!」
依鈴は満面の笑みでお礼を言い、去っていった。
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