高貴な財閥夫婦の猫かぶりな日常
〜〜〜♪♪♪

「ん?依鈴、スマホ!鳴ってるよ?」

「あ!もしかして、秀一郎さんかな?
……………あ!やっぱそうだ!
フフ…
はい!秀一郎さん!」

『あ…依鈴?
ごめんね、せっかくのお友達との時間に…』

「いえ!大丈夫ですよ!
何かありました?」

『実はね…早めに会社に行かないといけなくなったんだ…』

「え……あ…そうなんですね…
…………わかりました!」
かなりショックをうけているが、できる限り元気に返事をする。

『ごめんね…
一緒にランチしてから、会社に行く予定だったのに…』

「いえ!
じゃあ…あ!お弁当!作って持って行きますね!」

『え?悪いよ…』

「そんなことないですって!
これこそ、妻の務めですから!」

『ありがとう!
嬉しいよ!
じゃあ…また来る時に連絡くれる?』

「はい!」
通話を切る。
そして、ゆっくりスマホをテーブルに置いた。

「………」

「………」

「………ん?依鈴?」

「…………つか!!!
秀一郎さんに過剰な労働させんじゃねぇよ!!」

ガラリと態度が変わる、依鈴。

「ちょっ…依鈴!
一瞬で、皮剥がれたよ!(笑)」
ミオリが噴き出し笑う。

「あ!そーだ!
“社員の方々にも差し入れ”っつって、その辺の雑草でも入れようかな?(笑)」

「……ったく…依鈴!」

「ちゃーんと調理すれば、わかんなくない?
どうせ、味なんかわかんねぇ庶民だしー」

「依鈴、性格の悪さに磨きがかかってる!」

「はぁ…冗談よ!
……ってことで、悪いんだけど帰るね」

「ん、わかった!
あ、送ろうか?」

「いい?
ありがと!」


ミオリの運転する軽自動車に乗り込んだ、依鈴。
「――――ミオリ」

「んー?」
前を向いたまま、返事をするミオリ。

「なんかさぁー
ミオリの方が“令嬢”って感じじゃない?」

「ん?(笑)どうしたの、急に」

「秀一郎さんに出逢うまではね。
どーでもよかったの。
例え本性がバレても、別にどうってことないって。
ただパパやママが“令嬢らしく”って泣きつくから、しかたなく聞いてるけど…
でも、今は“怖い”
“秀一郎さんに知られたら…”って。
“怖い”なんて感情、私に存在しなかったのに」

「依鈴は、れっきとした“令嬢”よ?」

「えー、そう?」

「普通なら息苦しくて耐えられないことを、依鈴は小さな頃から努力してきたじゃない?
礼儀とか、節度とか…
“何もかも出来て当たり前”で、出来ないと失格って言われてきた。
それって、簡単に出来る事じゃない。
ずーっと依鈴は“四方木”って名前に縛りつけられてきたでしょ?
私はずっと傍で見てきたからわかる。
だから私は依鈴を尊敬してるし、はけ口になってあげたいと思ってる!」

「ミオリ、ありがと!
やっぱミオリは、最高ね!」

ミオリに自宅まで送ってもらい、急いで弁当作りに取りかかったのだった。
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