謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「ねぇねぇ、あの人カッコいいよっ」
「ほんとだ、浴衣が超似合う! 色っぽーい」
「モデルみたいだね。背高っ!」
「カオ、小っちゃい! KPOPアイドルみたい~」
電車乗ってる時からチラチラ感じていた周囲の視線。
人込みへと踏み出すと、それはさらにあからさまになった。
浴衣姿の人なんてそこら中にいるし、混雑してる中なら放っておいてくれるかと思ったのに。
みんなミーハーっていうか、ちゃんと見つけるんだもんなぁ。
わかるわよ? どんな群衆の中にいたって、彼ほど魅力的な人なら注目されちゃうよね。
本人は慣れているのかマイペースに進んでいくけど、一緒にいるあたしにまで無遠慮な視線が突き刺さってくるから困る。
なんであんな女が、とか思われてそうだなぁ……。
「翠!」
急に弾んだ声が聞こえて手を引かれ、物思いから覚めた。
気づけば、いつの間にか道の両側にズラッと屋台屋台屋台……わぁ、壮観!
懐かしの定番ものからニューフェイスまで、どのお店も大勢のお客さんですでに賑わっていて、熱心な呼び込みの声が飛び交っている。
「すごいな、こんなにたくさんの種類……あ、あれ美味そう!」
キョウは初めてで物珍しいのか、興奮気味にキョロキョロ。
よかった。
B級グルメなんて興味ない、とか言われたらどうしようって、若干心配してたけど大丈夫だったみたい。
普段食べ慣れないものだからこそ、余計に美味しそうに見えるのかもしれないな。
そうだよね。あたしだって久しぶりのお祭りだもの。
余計なことは考えずに、いっぱい楽しまなきゃソンよね。
「よし、キョウが食べたいもの、片っ端から食べましょ。もちろんここも、モデル料代わりに奢るから」
胸を叩くあたしに、「でも浴衣だって買ってくれたのに」とキョウの目が丸くなる。
「いーのいーの。どうせ、いつも女の子に奢ってばっかりなんでしょ。たまには奢られてみるのもいい経験よ? ま、今回は安上がりで申し訳ないけど」
「……なんか翠、カッコいいな」
「あれ、今頃気づいたの?」
気安い口調で返して、ぷはっと2人で笑い合う。
うん、大丈夫。
ちゃんと普段通り話せてるよね。いい感じ。
今夜が終わるまで、この調子で行けますように。
屈託ないその笑顔にバクついてしまう胸をこっそり押さえつつ、夕暮れの空へ祈った。