謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
疑惑の視線を向ければ、まだ若そうな画家の彼はぽかんと口を開けたまま、呆然とした様子。そして「次は私を描いてください!」「何言ってんの、あたしが先よっ」「うるさいわね、わたしが先に頼んだのよっ」……などと意味不明に騒ぐ女子多数。
彼女たちを置いて、キョウはさっさと歩き出す。
急いで追いつきながら、かき氷を美味しそうに頬張る彼を、まさか、と見上げた。
「ねぇ、さっきの絵、描いたのってキョウ?」
「あーまぁね。モデルやってくれないかとか言うからさ。先に君がモデルやってくれたらいーよ、って」
やっぱりキョウだった!
思わず彼の袖を引っ張り、「すごいっ」て興奮しちゃった。
「めちゃくちゃ上手だったよ!?」
「そーか? あの程度、誰だって描けるだろ?」
“あの程度”!?
きょとんしたカオで流されて、苛立ちすら湧く。
天は二物を与えずなんて、絶対嘘だわー。
「もしかして、キョウって絵描くの好き?」
「まぁ……嫌いじゃない、かも?」
この言い方は、かなり好き、ってことね。
へぇ、知らなかった!
キョウにそんな特技があったなんて。
あたしもアート全般好きだし、意外なところで共通点が見つかって、なんか嬉しいな。
「じゃあさ、今度っ――」
一緒に美術展行かない?
言いかけて、寸前で飲み込んだ。
――デートに誘ってみればいいじゃない。水族館とか映画とか! 暇してるんなら、嫌とは言わないでしょ。
――や、そんなことしたらもうカップルだし。
奈央とのやりとりが蘇る。
危ない危ない。
これ以上彼に深入りしちゃダメなのに。
自分から飛び込むような真似しちゃうところだった。
「今度、何?」
不思議そうなカオから急いで視線を外したあたしは、あはは、と空笑い。
「えーとえーと、あのぅ……今度、あたしの絵も描いてほしいなーって」
「えー人物は得意じゃないんだよなぁ――ヌードだったら考えてもいいけど」
「ヌッ……バカッッ」
「あはははっ」