謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

ゴミ一つ落ちてなくて清潔だし、モルタル風の壁とヘリンボーン模様の床のコントラストはカッコいいし、これはこれでクールでモダン、と言えなくもないのかもしれない。

ただ、生活感がなさすぎて寂しい印象。
恋人どころか、友達の一人すら呼んだことないような。

少なくとも、華やかなセレブニートっていうイメージとは違いすぎる。

ほんとにここに住んでるのよね?
もしかしたら、セフレの部屋かホテルを泊まり歩いていて、めったに帰ってこない、ってことなのか……。

あぁでも、とそこで唐突に脳裏へ閃いたのは、以前交わした会話だ。


――いや、やっぱり誰かと一緒に食べるのって楽しいもんだなと思って。
――えぇ? 何それ、いつも一人で食べてる、みたいないい方ね。

あのやりとりの時、そういえば気になったっけ。
彼の、揺れた眼差しと寂しそうなカオ。

あの時微かに感じた何かに、通じるものがこの部屋にあるような……

だからかな。
一人でこの部屋にいると、なんだか落ち着かない。
彼の心の奥を、こっそり覗き見ているみたいな気がしてしまって。


「キョウ……早く帰ってこないかなぁ」

ベッドの上で膝を抱えたあたしは、ぽつんと置かれたスツールから視線を逸らして吐息をつく。

彼はと言えば、あたしをベッドへ降ろすなり――ソファがないので、他の選択肢がなかった――コンビニへ絆創膏を買いに行ってくれて、まだ帰ってこない。

大丈夫だって散々言ったのに、問答無用で押し切られたのだ。

鍵がないから、勝手に帰るわけにもいかないしな。

はぁ……お願い、早く戻ってきて。

心の中でつぶやいて、何度目のため息をこぼした時だろうか。
ようやくガチャ、とドアが開く音がした。

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