謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「ちょっと、電話かけてもいいですか?」
その名前を思いつくや否や、黒沼に断って、カバンからスマホを取り出した。
操作する手は震えてしまい、何度も間違えてやり直し、ようやく通じた相手は――
『はいもしもし、翠?』
「優、ごめん。ちょっと相談したいことがあって……」
金融機関に勤めてる彼なら、何か方法を知ってるかもしれない。
『悪いけど、まだ残業中なんだ。花見に行くって話だろ。悪いけど無理だよ。この時期は忙しいって知ってるだろ――』
「違う、そうじゃなくて」
普段自分の話を遮られると彼は機嫌が悪くなるのだが、今は緊急事態だ。そんなことを気にしてる余裕はない。
「お金を借りたいの。ちょっと大きな額が急に必要になって。優なら、どこかで借りられるとか、知らないかなって」
『金? 大きな額って……いくらだよ?』
面倒くさそうに、けれど一応話は聞いてくれるようだ。
あたしはこくりと息を呑み、お腹に力を入れて声を絞り出す。
「……さ、さんぜん、まん」
『…………』
言うなり、電話の向こうが沈黙した。
「す、優? 聞こえてる? あの、無理なら全額じゃなくても――」
『聞こえてる。けど、聞かなかったことにする』
「え」
『絶対何か面倒なことになってるんだろ。突然そんな金が要るなんて。普通じゃない。こっちまで巻き込まないでくれ』
黒沼に負けず劣らずの冷たい声音を最後に、ぷつっと通信が途切れた。
ツーツーツー……