謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
訝しむ視線を送ると、「物欲はあまりないんだ」とキョウ。
まぁ、この部屋を見れば、そうでしょうね、と頷かざるを得ないか。
でも――
「欲しかったのは、もっと別のものだ」
「別のもの?」
「…………」
言葉に迷うキョウは珍しい。
あまり積極的に話したいことじゃないんだろう。
「あの、言いたくなかったら別に」
助け舟を出すと、寂しげな笑みを浮かべた唇がちゅっとあたしの額へ落ちた。
「……オレは、三兄弟の真ん中でさ。兄と弟がいるんだ」
しばらくしてからようやく口を開いた彼が語り始めたのは、繋がりがいまいち見えない話題で。
頭上にハテナが浮かんだ気がしたが、とりあえず「そうなんだ」と相槌を打つ。
賑やかで楽しそうね、と続けようとして、しかしそのまま口を噤んだ。
孤独を纏ったその眼差しが、天井より遠くを見つめているような気がしたから。
「2人はどちらもすごく優秀で、勉強もスポーツも、なんでもできる天才タイプ。一方のオレは子どもの頃病弱で、療養に最適だという理由でスイスへ移された。当時は子ども心に、出来が悪いから捨てられたんだと思ってたな」
ご両親ともに仕事が忙しく、たった一人での渡航だったと聞かされて、胸が痛くなった。
幼い子にとって、家族と離れて過ごす日々は心身ともに相当な負担だっただろう。例えそれが自分のためだと頭でわかってはいても、両親と一緒に過ごせる兄弟を羨ましく思っただろうなって、あたしでも容易にわかる。
「身体は徐々に丈夫になって、帰国したのは16の時。それから日本の高校へ編入した。でも、10年以上も離れていた実家にオレの居場所はなかった」