謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「家業は兄が継ぐことに決まってたし、兄のサポートには弟がいた。家族はみんなオレに優しかったよ。『好きなことをすればいい』ってね。他のクラスメイトたちみたいに受験でプレッシャーかけられることもなくて、気楽と言えば気楽だったな」
言葉とは裏腹に、その表情は晴れない。
構われすぎるのも鬱陶しいものだけど、放っておかれるのもまた寂しかっただろうな。
ずっと離れて暮らしていて、ようやく帰国できて。
これから距離を縮めようと思っていた時なら、なおさら。
自分だけ疎外されてるように感じたかもしれない。
そんなあたしの想像を裏付けるように、彼はその頃の自分を「空っぽだった」と語る。
「どこまで行っても満たされない空洞が、自分の中にある感じ。欲しいものは確かにそこにあるのに、手を伸ばしても届かない。掴めない。そんなもどかしさだけが積もっていって。段々、何かを求めても無駄だと諦めるようになってさ。それが無気力っぽく映ったのか兄弟からも気を遣われて、それも辛くて。大学卒業と同時に家を出て、祖父からもらったこのマンションに引っ越したんだ」
淡々と虚空へ吐き出される台詞の一つ一つに彼の痛みを感じて、鼻の奥がツンとした。
“生まれてこの方、欲しいと思ったものが手に入ったことなんて一度もない”――きっと彼が本当に欲しかったのは、お金で買えるものじゃない。
例えば、両親からの愛情だったり、対等に笑い合える兄弟関係だったり……
あぁ、あたしはバカだ。
キョウの、何を見ていたんだろう。
何もわかっていなかった。
「わかってた、はずなんだけどな。どうせ欲しいものは手に入らない。だったら最初から、何も望まない方が楽だって。なのに……」