謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
一緒に食事を作って食べて、いい雰囲気になって、あわよくば告白まで――描いた青写真は、けれどシャボン玉の泡より簡単に消えた。
びっくりしたような困ったような、そのカオを見た瞬間に。
「あー……それは、事前に連絡をもらって……いや、どうかな」
予想外の歯切れの悪い返事で、不穏な予感は加速する。
「えぇと……うちは、いろんな女の子が出入りするから、鉢合わせしちゃったら翠も気まずいだろ?」
胸の奥が、急速にシンと冷たくなっていくのがわかった。
“いろんな女の子”……他のガールフレンド、ってことだよね。
あの家に、そんなたくさん、呼んでたんだ。
あのベッドを使ってたんだ。
全然、そんな感じしなかったのに……。
そして、今後も彼女たちとのお付き合いは変わらない、と。
そう宣言されたのよね、今。
「……そっか、そうだよねー。キョウ、モテモテだもんね」
彼の特別になれたと思い上がっていた自分が急に恥ずかしくなった。
「わかった、変な事言ってごめん。家には行かないから安心して。じゃあ、送ってくれてありがと。おやすみなさい」
虚ろな声で早口にそれだけ言い、返事も待たずに部屋の中へ逃げ込んだ。
そのまま閉めたドアにもたれて、手で口を覆い嗚咽を堪える。
すると、しばらくして、
『翠、……ごめん。お休み』
ドアの向こう側で、躊躇いがちな声が言い。
足音が遠ざかっていく。
その音と反比例するようにみるみる目の裏が熱くなり、やがて涙となって溢れ出した。
「っ、……っふ、……ぃっく……」
あたしはしばらく、その場から動けなかった。