謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

「え、何、相馬もう帰んの?」
「もうって、定時はとっくに過ぎてますけど?」

「あはは、ごめんごめん。そうだよな。あ、ならおれも一緒に上がるから、どっかで飯でも食ってかねぇ?」

いつもと変わらない人好きのする笑みを向けられて、つられて微笑みながら首を振る。

「疲れてるし、今日はやめとく。奈央誘ったら?」

「沢木かぁ。そういやまだ戻ってこないな。撮影、長引いてんのかなぁ」
「今日の仕事、なんだっけ」
「確か、料理系だったような……」

何かトラブルだろうか、と顔を見合わせた時だ。
噂をすればなんとやら、フロアの向こうから奈央が近づいてくるのが見えた。

「あ、来た来た。お帰り」
「沢木、遅かったなー何かあったのか?」

パタパタと足早に社内を横切ってきた奈央は田所の質問には答えず、緊張した面持ちであたしの腕をガシッと掴んだ。
「翠っよかった、まだ帰ってなくて!」

「う、うん、何? 何か、急ぎの修正?」

「一緒に来て」
「え、ちょ、ちょっと!?」

ぽかんとする田所を置き去りにして、あたしは強く引っ張られ、人けのない休憩コーナーへと連れ込まれた。

「どうしたの? 何かあった?」

片隅の椅子へあたしを座らせ、隣に腰を下ろす奈央へ、恐る恐る尋ねてみる。

彼女はまだカバンすら持ったままだ。
らしくないな、どうしたんだろう?

「……わかったの」

重々しい調子で彼女が口を開き、否が応でも緊張が高まる。
ええと……、一体何?

「わかったって?」


「キョウさんの正体よっ!!」


……え……?

< 129 / 246 >

この作品をシェア

pagetop