謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「その顔じゃ、恋人にも見限られたか? 薄情な男だなァ」
通話の切れたスマホを手に呆然としていると――くつくつ肩を揺らした黒沼があたしの隣へ移動してきた。
大柄なせいか圧がすごく、距離を取りたい気持ちはあるのに、頭が真っ白で身体が動かない。
優の拒絶が、思った以上にショックだったみたい。
だって……“こっちまで巻き込まないでくれ”だよ? そこまで言う?
仮にも3年付き合ってる恋人に?
せめて、何か困ってるのかとか、事情くらい聞いてくれたって……!
思わずジワリと視界が滲みそうになり、今はダメだ、と無理やり頭をひと振りする。泣いたって何も解決しないのよ。
お金よお金。
優は助けてくれない。ってことは、あたしが一人で集めなきゃ。
三千万……三千万……
どうしよう……どうすれば……
「どうしても無理なら、あんたが妹の代わりに働くっていう手もあるな」
唐突に分厚い手に肩を抱かれて、ヒッと喉から悲鳴が漏れた。
「見た目、25くらいで行けそうだし。気の強そうなところも、刺さる客はいるだろ。ちょうどあっちは人手不足でね。数年頑張れば、金を返せるくらい稼げるかもしれんぞ?」
毛穴が見えるくらいの距離で全身を舐めるように見つめられて、ゾッと嫌悪感が募る。
嫌だ嫌だ嫌だ……こんなヤツ、はり倒して逃げてしまいたい!
でも、逃げられない。
お金の問題を解決しなければ、こいつはずっと、あたしに付きまとってくるだろう。会社まで押しかけて来るかも。もしかしたら本当にヤのつく連中と関わってるかもしれないし……
その手のドラマや映画が頭の中で渦を巻き、情けないけどくらりと目を回しそうになるあたし。
そこへ、「実は俺もそのクチでね」とダメ押しの一言が突き刺さる。
「はぃ?」
「気の強そうな女を見ると、その鼻っ柱をへし折って、自分の前に這いつくばらせてみたくなるんだなァ……」
生温かい手の平に膝を撫でられて、スカートじゃなくてよかったと思いつつも全身が粟立つ。
やだやだやだ!
止めて、触らないで!
気持ち悪いっ!
叫びたいのに、喉の奥が糊付けされたみたいに声が出てこない。
どうしよう。
どうしよう。
まさかこんなことになるなんて……藍のばかーっ!
分厚い手はあたしの膝から腕、そして肩をたどり、顎へたどり着く――こんな顎クイいらんわーっ!!――あたしはもう混乱の極み。
ニヤニヤしながら近づいてくる脂ぎった顔から、涙目になって精一杯顔をそむけた――……
「なんだか面白そうなことやってんな」