謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
8. イケメンニートの正体が判明しました。
『忙しいって、電話1本入れられないほど? もうお盆まで時間もないのに』
「うんうん、だからさ、お盆は無理だと思うよ。夏は、藍が大好きなアニメ関係のイベントが盛りだくさんだから」
『じゃあ翠だけでも帰ってらっしゃいよ。あ、ほら、白井さんと一緒でもいいし』
ウキウキと弾む母親の声に、一瞬にしてダダ下がるテンション。
あー忘れてた。
まだ優のこと、お母さんに話してないんだった。
「ええと、お母さんあのね、言ってなかったけど、あたしと優――」
『そろそろ両家の顔合わせとか、具体的なこと考えてるんでしょうね? あちらはお忙しい方なんだから、翠の方でちゃんと進めてあげないと。あっという間に愛想つかされちゃうわよ?』
「や、あの、だからそのことだけど――」
『あらやだ、インターフォン。誰か来たみたい。もう切るわね。来れることになったらまた連絡してちょうだい。じゃあね』
一方的にしゃべりまくり一方的に沈黙したスマホを片手に、「はぁあああっ」と巨大なため息を吐くあたし。
襲ってくる疲労感で、地面に座り込みたくなっちゃった。
そこが繁華街の目抜き通りじゃなければ、本当に座ってたと思う。
夏真っ盛りの路上は、陽が傾く時刻になってもまだ昼間の熱気が揺らいでる。
邪魔にならないように道の端へ移動して、ハンカチで額に滲んだ汗をぬぐった。
目の前を行きかうのは、あたしと同じく定時退社したらしい人たち。
食事か飲み会か、はたまた合コンか。
リラックスした表情の彼らは、営業を開始したばかりの居酒屋やダイニングバーへと吸い込まれていく。
場所は新宿。
夜の顔を見せ始めた街には華やかなネオンが瞬き、浮かれた空気が漂っている――
「ま、あたし以外は、だけど」
ハンカチでパタパタと申し訳程度に仰ぎつつ、僻み半分で言って肩をすくめる。
なぜなら、あたしがその日そこに居たのは、飲み会のためでも合コンのためでもない。
藍が失踪した原因を探るためだったから。