謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
ところが、ダメもとで以前もらった名刺に書いてあった連絡先に電話してみたら、意外にも妙に協力的になった黒沼と話をすることができて、あっさり目的のお店を教えてくれた。
しかも、お店のスタッフに話を通しておいてくれるという。
なんだか狐につままれたような気持ちだが、もちろんこちらとしては大歓迎。好意はありがたく受け取らせていただくことにする。
「キョウにはもう……頼れないしな」
苦々しい独り言が、周囲の喧騒に紛れて消えていく。
あたしはハンカチをカバンへ戻しながら、先週会社で交わした奈央との会話を思い返した。
――キョウさんの正体よっ!
――キョウの、正体?
奈央が衝撃の事実を知ったのは、その日の撮影中だったそうだ。
――確か、リリィに掲載する記事広告、だっけ?
20~30代前半のママ向けの雑誌名を挙げると、奈央は勢い込んで頷いた。
――クライアントは西部電機。料理上手な芸能人に、商品を使って調理してもらうっていうシリーズものでね。
――あぁはいはい、人気だよねあれ。
――今回のゲストが、花坂雫だったの。
――へぇ花坂雫!
舞台出身の有名な女優だ。
最近は地上波ドラマにも出演したりして、若い世代からも人気が高い。
――あんな大女優が、料理なんてするの?
――下積み時代に節約のためにやってたそうよ。実際手際もよくて、出来上がりも美味しくて……って、そんなことはどうでもいいの、キョウさんのこと!
――う、うん。
そうだよね、その話とキョウが一体どこで結びつくの?
若干訝しく思いつつ話の続きを待つ、と。
興奮気味の視線とぶつかった。
――初対面だったから、花坂さんにまず名刺を渡して自己紹介したわけ。
――……はぁ。
――そうしたら、『もしかして、トワズの広告作った方かしら?』って、聞かれたのよ。どうやら、スタッフクレジットでわたしの名前を見たみたいで。
――ふぅん。トワズのファンなのかな。
――そう思うでしょ? 違うのよ。彼女、続けてこう言ったの、『息子を使ってくれてありがとう』って!