謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

――え、む、むすこ……?

――『引きこもりがちな子で、心配してたの』とか、嬉しそうに言われてね。一瞬なんのことかわからなくて、ぽかんとしちゃった。そしたら、ちょうどカメラマンがまた高林さんだったんだけど、『あぁキョウ君は雫さんの息子さんだったんですか、どうりで誰かに似てると思ったわけだ』って……

――……キョウが、花坂雫の息子?

ゴクッと、喉が鳴った。

――それだけじゃないの。彼女の夫が誰か、知ってる?

――し、知らない……けど、そう聞くってことは、有名人?

恐る恐る聞き返すあたしへ、奈央は勿体ぶるようにゆっくり頷いた。

――撮影の後で、高林さんが教えてくれた。当時は相当騒がれたみたい。シンデレラ婚だって。

――シンデレラ婚……

つまり、玉の輿ってことだよね?

――もちろんその頃から彼女だって実力派の女優として知られてたけどね。何しろお相手が、霧島建設の御曹司・霧島志郎(きりしましろう)だもの! 

――霧島建設って、業界トップの大手ゼネコン……。

――そう、そこ! 志郎氏は当時副社長で、今は社長を務めてるんですって。


大企業の社長と大女優の、息子……

御曹司だろうなとは予想してたけど、まさかそんなハイクラスなセレブだとまでは思ってなくて、かなりの衝撃だった。

そりゃお金に不自由しないはずだわ。
例えニートでも、お小遣いで充分生活できちゃうだろう。


「遠い人に、なっちゃったなぁ……」

所詮、叶わない恋だったってことだ。
住む世界が、そもそも違ってたのよね。

切なく苦い想いに、頬が歪む。

今、やるべきことがあってよかった。
何か他のことで頭を一杯にしてないと、すぐにキョウのことを考えてしまって、彼との思い出に浸ってしまって、頭がおかしくなりそうだもの。

視線を無理やり持ち上げてから、あたしは再び目的地へ向けて歩き始めた。

< 133 / 246 >

この作品をシェア

pagetop