謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
確かに女たらしでたくさんのセフレがいるとはいえ、卑劣な人でなし、ってわけじゃないもの。
お金を払ってあたしを助けてくれたのは、事実なんだし。
だから……大丈夫だよね?
あの子、犯罪に巻き込まれているなんてこと、ないよね?
【今回のゲストは、ひょんなことから犯罪に巻き込まれてしまった主人公の母親を――】
その時、ふいに耳を掠めたタイムリーな単語。
釣られるように顔を上げれば、真っ暗な夜空を背景にそそり立つ巨大な街頭ビジョンに和服姿のあでやかな美女が微笑んでいて、ドキリとした。花坂雫だ。
【実生活でも同じ年くらいの息子さんがいらっしゃるんですよね、花坂さん】
【えぇそうです。子育てでは苦労もしましたが、冤罪で警察に追われることもなく、どうにか元気でやっております】
【あはは……ドラマの方の息子さんは大変でしたからね。花坂さんの息子さんなら、さぞかしイケメンでモテモテでしょうねぇ。羨ましいなぁ。もうご結婚されてるんですか?】
【いえいえ、まだ独身で遊んでばかりなんですよ。まぁ結婚となるとねぇ、お相手の方のほうが怯んでしまわれるみたいで】
【あぁ、なるほど。業界トップの大企業の御曹司ですからねぇ。難しいでしょうねえ】
【幸い、主人の仕事関係で親しくさせていただいている方のお嬢様と、以前からいずれは、というお話はありましてね】
【おぉ、許嫁というやつですか】
【そんな堅苦しいものでもないんですけど。本人もようやく最近結婚に乗り気になったみたいで、家族一同喜んでいるんですよ。そろそろ役の上だけじゃなく、本物の孫の顔も見たいですしねぇ――】
結婚……キョウが、結婚……?
襲ってきたのは、想像以上のショックだった。
身構える間もなく広がっていく胸の痛みに、否応なく顔が強張って――ドンッと勢いよく誰かとぶつかった。
「ぼーっとしてんなよっ!」
強い調子で罵られ、ようやくここが新宿の往来であることを思い出して、とぼとぼと横断歩道を渡り始める。
もう一度街頭ビジョンを見上げるだけの余裕は、なかった。