謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「待てよっ相馬!」
店を出て、駅へ向かって歩き出したところで後ろから田所の声が聞こえた。
あれ、何か忘れ物?
お金は最初に払ったけどな、と足を止めて振り返れば、すぐに息を弾ませた彼が追い付いてくる。
「おれも一緒に帰る」
「えぇっ? 幹事が抜けちゃダメでしょ。あたしのことは気にしないでいいから戻ってよ!」
「いいって。ここらへん、この時間だと酔っ払いも多くなるしさ」
「別にそれくらい――」
押し問答は、結局田所に押し切られた。
「気にするなって。今夜は加藤の願いを叶える会だし」
「加藤ちゃん、の?」
話を聞いてみると、実は男性陣の中に甲子園で活躍した元球児がいたらしく、加藤ちゃんは最初から彼がお目当てで合コンの話を持ち掛けてきたのだとか。
「中学ん時バッテリー組んでたって話したら、めちゃくちゃ食いついて来てさ」
田所の好みの女の子を集めるから、何が何でも連れて来い、と頼み込まれたそうだ。
うーん、加藤ちゃん、ヨシモトの追っかけやってたと思ったら今度は甲子園ときたか。ストライクゾーン広いなー。
「えーじゃあなおさらいいの? 田所の好みの子ばっかりだったんでしょ? 連絡先交換するとか送っていくとかさ、しなくてよかったの?」
「あー……や、それはその、もう……」
むにゃむにゃと、なぜか歯切れ悪く言い淀む田所。
んん? なんかカオ、赤くない?
「や、いいんだって。気にすんな!」
「そ、そう?」
まぁ、本人がそう言うなら別にいいけどね?
好みのタイプ=付き合いたい、ってわけでもないだろうし?
あれ、加藤ちゃん、今夜の席に本命がいたなら、どうしてあんなにガッカリしたような疲れたようなカオ、してたんだろ……
「……ま、いっか」
単なる気のせいだったのかも。
「いいって、何が?」
「んーん、なんでもない。そういえば加藤ちゃんのお目当ての彼って、あの4人の中の誰だったの?」
「あぁ、えーと、最初おれの隣にいた奴。長めの茶髪でちょっとチャラそうな。柳沢っていう」
「えぇっあの人!? 全然野球と結びつかないね、イメージが」
「だろ? 大学で肩壊してさ、それ以降は止めちまったらしい」
そんなことを話していたら、割とすぐ駅前に着いてしまった。
金曜日の夜ということもあり、ターミナル駅の混雑ぶりは半端ない。