謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
他人の空似、見間違いかとも思った。
何しろこの混雑ぶりだし、野球帽を目深にかぶり眼鏡までかけたその男の顔は、この距離じゃよくわからない。
やっぱり人違いかも。
大体、どうしてキョウと藍が一緒にいるわけ?
理由がないでしょう。
けれど――希望的観測は失望へ、絶望へ、瞬く間に入れ替わる。
男が何かに気づいたかのように顔を上げ、こちらへ視線を巡らせたのだ。
「っ!」
交差する視線。
眼鏡越しに見開かれる双眸。
美貌に走る、驚き。
もの言いたげに、開く唇。
まるでスローモーションのように、それらのすべてがはっきりと見えた。
だから、わかってしまった。
これは、見間違いなんかじゃない。本人だって。
どういうこと……?
「…………」
言いたいことも、聞きたいことも、山ほどあった。
なのに肝心の声が、喉の奥に貼り付いて音になってくれない。
ねぇ、どうしてあなたが藍と一緒にいるの?
どうして……
「ッ――」
「相馬っどうしたんだよ突然。JRそっちじゃねえぞ?」
不思議そうな声と共に肩を掴まれて、「あ、あぁうん」とおざなりに田所を振り返ったのは一瞬。
けれどその一瞬で、あたしはキョウを見失った。
再び視線を戻した先には大混雑の光景が広がってるばかりで、目指す人の姿はどこにもない。
迷惑そうに避ける人たちに押されながら、あたしはただ茫然と立ち尽くした。