謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
はっきりと思い出せる。
あのツーショット。
混雑の中で迷子にならないようにだろうか、藍の手がごく自然にキョウの腕を掴んでいて――親し気な距離だった。
第三者が見れば、十中八九恋人だと考えるくらいの……
――私は、男だと思う。
――彼氏かどうかはわからないけど。お金、渡してるっぽい所を見たのよ。
――ただ……そうね、黒っぽいスーツを着てて、背は高い方だった。
まさか、2人は知り合いどころか付き合ってて。
“摩天楼”の裏口で目撃された男が、キョウって可能性は……
……ないないっ、ないよね? それはおかしいわよ。
だってキョウは御曹司で、ハイクラスセレブなのよ?
藍みたいな普通の女の子からお金を巻き上げなきゃならない理由はない。
え、それとも……
余裕そうに見えただけで、実は困ってた、なんてことある?
ギャンブルか何かで、使い込んで。
親にも言えないくらいの借金を作っていた……ううん、あるいは単に面白がって笑ってただけ、かもしれない。
誰が一番お金を出すか、ガールフレンドたちを競わせて?
最低なゲームだけど、暇なセレブニートなら、そのくらいのことやるかも。
むしろ、お金に困っていたというより、そっちの方がありそう。
じゃあ、全部知った上であたしに近づいたのは、例えばあたしが警察に通報しないように止めたかったとか、そういう理由――
「……どり、翠っ!」
「えっ?」
肩を揺すられてようやく物思いから覚めるあたしを、奈央が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「どうしたの? さっきからずっと呼んでるのに」
「ご、ごめんっぼんやりしてた」
手を合わせて謝りつつ、社内の自席にいる自分を認識してドッと赤面。
勤務時間中に白昼夢とか、社会人としてあり得ない。
「ごめんね、もう大丈夫」
急いで口角を上げて見せるが、彼女の視線はまだもの言いたげだ。
「ええと……何かあった?」
居心地の悪さを振り払うように聞くと、今度は彼女の方が決まり悪そうに頷いた。