謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

さっきまで居酒屋やらバーが並んでて、人もたくさん歩いてたのに……いつの間にか辺りは住宅街。見慣れない光景が広がっている。

しまった、ぼんやり歩きすぎた……。

とりあえず大通りに出ればとは思うものの、夜のせいか方角がよくわからない。熱帯夜でみんな外出を避けているのか、人影も全くないし。

あー……何やってんの、あたし。
自分で自分にツッコみながら、歩調を緩めてスマホでマップを立ち上げる。

「スマホがなかったら生きていけないかも」

自虐的なつぶやきとともに肩をすくめ、現在位置を検索。
あぁはいはい、たぶんちょっと、いやかなり、行きすぎちゃった――……

ん?


後方の微かな足音に気づいたのはその時だ。


コツコツコツ……

コツン、コツン、コツン……

あたしの足音にシンクロするように、音が聞こえる。
パンプスやスニーカーとは違う固い足音。革靴、みたいな?

そういえば、随分前からあの音、聞こえてた気が……


えっと……た、たまたま、だよね?


急に周囲の静けさや夜の闇を意識してしまい、呼吸が浅くなる。

やだやだ、早く人通りのある所へ戻ろう、と歩調を速めるあたし。
すると。

コツコツコツ……

コツンコツンコツン……


後ろの足音も、全く同じように速めのリズムを刻み始めたことに気づき、真夏にも関わらずゾクリと鳥肌が立った。

歩調を緩めれば、相手も緩める。
角を曲がれば、後ろの足音も角を曲がる。

これって……尾行されてるんじゃない?
変質者? ヤバいヤツ?

緊張と恐怖で叫び出しそうになる口を手で覆い、呼吸を懸命に整える。

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