謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

「大声出して、ほんとにごめんなさいっ」

約30分後、あたしたちは駅前にある居酒屋のテーブルについていた。

枝豆やだし巻き卵、唐揚げや餃子、シーザーサラダなどのザ・居酒屋メニューを前に、今、田所へ深々と頭を下げて過剰反応を謝ったところだ。

「追いかけてくるから怖くなっちゃって」

出先から直帰の途中、立ち飲みの居酒屋で一杯飲んでいたところ、店の前をあたしが通りかかって呼び止めようとしたらしい。

知り合いだっていう可能性はまったく考えてなかったからな。
めちゃくちゃ本気で走っちゃったじゃない。

羞恥心を紛らわすようにビールジョッキへ口をつけるあたしを呆れるように見て、田所は唐揚げを口へ放り込んだ。

「『そんなに急いでどこに行くんだ?』って声かけたぞ?」

「えぇー、全然気づかなかった」

怖くて逃げることに精いっぱいだったから、きっと聞き逃したんだな。

「ほんとごめん。でもあんな長い距離後ろついてこられたら、女子は怖いって。追いついて声かけてくれたらよかったのに」

恨みがましく睨むと、田所は「長い距離?」と首を傾げた。

「そんな長くもないだろー?」
「長いわよっだって――……」

持ち上げたジョッキを、しかしあたしはそのままテーブルへ戻した。

「“そんなに急いでどこに行くんだ”? そう言ったの?」

「あぁ、そう言ってるじゃん」

「じゃあ、田所があたしを見かけた時、もしかしてあたし、もう……駆け足になってた?」

掠れた声で恐る恐る聞くと、田所はきょとんとした顔で、「全力疾走してたな」と頷く。

……違う。
田所じゃない。

あたしの後ろを歩いていたのは、別の人だ。

ジョッキを握る手が、微かに震えた。

< 151 / 246 >

この作品をシェア

pagetop