謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「おーい? 相馬? 大丈夫かぁ?」
「ね、ねぇ、あたしの後ろ、他に誰かいなかった? 一緒の方向に向かってる人」
「他に誰か? うーん……いや、いなかったと思うぞ?」
「そう……」
絶対に誰かいたと思うんだけど……。
「なんだよそれ。つけられてた、ってことか?」
「わからない。気のせいかも……」
手短に迷子になってからのことを説明すると、「気のせいじゃなかったら事件だぞ。最近は物騒だからな」と相手の表情が引き締まる。
「警察、一緒に行ってやろうか」
真剣な顔で言われて、慌てて首を振った。
「大丈夫だよ。最近疲れてるから、単なるカン違いかもしれないし。あの辺りはもう行かないようにするしね」
イタズラ目的の変質者なんて、そうそう出会ってたまるもんか。
無理やり笑顔を作って、「もー最近ツイてなくて嫌になっちゃう。お祓い行こうかなー」なんてカラ元気でビールを煽る。
「おう、その方がいいかもな」
田所はあたしと自分のためにもう1杯ずつビールを注文してくれてから、「そういえば」と周りのテーブルを気にする素振りをしつつ声を潜めた。
「加藤から聞いたけど、相馬って彼氏と別れたんだろ? 元カレがストーカー化したとか、そういう可能性は?」
「っゲホッケホッ……えぇえ?」
まさかの方向から変化球が来た感じで、ビール吹き出しそうになっちゃった。
「ないない、それはないよ!」
確かに別れを切り出したのはあたしの方からだけど、拗れたわけじゃない。
優はすでにお見合いまでしてるし、あたしなんかとっくに過去の女だもの。
そう伝えると、田所は「なるほど」と一旦頷いたものの、なんとなくまだ納得できないって表情。
「どうしたの?」
「んー……いや、おれの早とちりだったらごめんな。なんとなく相馬の最近の不調、何か原因があるんじゃないかなーって思ってたから」
「え」
彼がそう思ったのは、合コンの夜がきっかけらしい。
「駅でのお前、やっぱおかしかったし。あれから半月くらい経つけど、ずっと心ここにあらずって感じだもんな。仕事でも集中できてないし、心配してたら昼間のあれ、だし」
イラストの発注ミスのことだよね。
そう言えばあの時、田所もあそこにいたっけ。
「う……面目ない」
さすがだな、鋭すぎない?
「やっぱりなんかあったんだろ? おれでよければ話聞くけど」
「や、あの……あるにはあったけど、別に今夜の話とは全然関係ないよ?」
「いいから話せって。第三者の方が、色眼鏡なしに意見してやれるぞ?」
いつになく押しの強い田所に、引き気味で戸惑うあたし。
ただ、第三者の方が、という部分はもっともな気もして。
少し迷ってから、あたしは「ええと、」って渋々口を開く。
そして、藍の失踪からキョウとの出会い、現在までを語り始めた。