謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
お酒が入ってたせいか身体の関係のことまで赤裸々にしゃべってしまったから、ツッコまれるかと思ったけど、田所は意外にも冷静に最後まで聞いてくれた。
「その、駅で会ったのが妹だったっていうのは確かなのか?」
「うん、間違いないと思う」
あの映像を思い出しながら答える。
彼女が着ていた服は、あの子が好きなブランドのもの。
前に会った時着ていた記憶があるし。
背負ってたリュックも、ぶら下がってたぬいぐるみも、見覚えがあるものだった。
それを伝えると、腕組みをした田所が重々しく頷いた。
「ヤバいかもな。そいつ、相当悪い男かも」
彼は、あたしのネガティブな意見に賛同した。
つまり、藍と付き合っていたのはキョウで、彼女の借金はキョウのためだった、というものだ。
「でも、三千万を返してくれたのも彼なわけだし……」
「そもそも金に困ってないヤツなんだろ? 御曹司ってことは」
「う、ん」
「全部ただの暇つぶしのお遊びだったのかもしれないぜ? どれだけ自分のために金を出すか、誰かと賭けてた、みたいな」
そんなことする人じゃない、と言い返したいのに、なかなか口が動かない。
あたし自身も、その可能性を考えたから。
でもそれを肯定してしまったら、あたしたちが一緒に過ごした時間をすべて否定することになる。
甘いと言われるかもしれない。けど、それだけはどうしても――……
「とにかく、やっぱり早く警察に行った方がいい。おれも一緒に行くよ。もしかしたら、妹、そいつに脅迫されてて逃げられないのかもしれないだろ」
「脅迫って、そんな大げさな」
とっさに漏れた声を咎めるように、ジロリと大きな目がこちらを睨む。
「まさかと思うが、そいつに本気で惚れたとか?」
「っ……」
ドキリと口を噤んだあたしの表情ですべてを察したんだろう。
「…………」
沈黙と視線が、痛い。
「あの霧島建設の御曹司だろ。んなの、100パー遊びに決まってる。本命なんて、きっと会社の都合でとっくに決まってるさ。まあ、愛人ポジション程度はもらえるかもしれないけどな」
――幸い、主人の仕事関係で親しくさせていただいている方のお嬢様と、以前からいずれは、というお話はありましてね。
大女優の美声が、頭の中で響く。
やっぱり……そう、だよね。
自分が本命なんて、あるはずない。
頭ではわかってるの。
ただ、なかなか心が納得してくれなくて――
「そんなヤツのこと想うくらいなら、おれにしとけよ」