謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「……え?」
今、なんて?
聞き違いかと思った。
ぎっしり埋まった酔客で、店内は相当騒がしかったから。
でも……まっすぐにこちらを見つめる田所の視線で、空耳じゃないってわかった。
「あ、の――」
「気づいてなかっただろ、おれの気持ち。おれがずっと、お前を見てたこと」
拗ねたように肩をすくめられ、狼狽のあまり視点が定まらない。
「え、えぇ?」
だって……考えたこともなかった。
田所があたしを?
いつも楽しく笑わせてくれる友達、仕事では頼りになる同僚で、まさかそこに恋愛感情が混じってたなんて……。
困惑が伝わったのか、どこか苦しげにその眼差しへ影が落ちる。
「お前にはずっと彼氏がいて同僚以上にはなれないってわかってたし、最初から諦めてた。けど、クズ男に騙されかけてる、っていうなら話は別だ。遠慮なんかしてられない。おれの方が、絶対相馬のこと大事にできるって自信あるから」
赤く染まったその耳は、アルコールのせいなのか。
突然彼が見知らぬ人になったような気がして、戸惑いが止まらない。
田所と付き合ったら、って仮定は合コンの時にも考えた。
楽しいだろうなって。
とはいえそれは、あくまでキョウと出会う前だったら、という話で。
どんなにいいヤツでも、一緒にいて楽しい相手でも、友情以上の感情を持つことはできないって、今はわかってしまってる。
だから、
「あ、の……田所、ごめ――」
「あーごめんなさいはナシな」
「え?」
「失恋を癒すには新しい恋愛が一番、これ常識だろ。傷心につけ込むようで悪いけど、おれもチャンスは逃したくない」