謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

束の間、真っ白になる思考回路。

「あ、い……藍っ?」

ハッと我に返って裏返った声を振り絞った時には、その姿はもうエレベーターの中へ消えた後だった。

この距離からでも、どんどん上へと移っていくランプははっきり見える。
止まったのは、最上階。

キョウの部屋だ。

ドクンドクンドクン……

2人はもう一緒に住んでるの? 同棲?
あの部屋で?

静謐の満ちた空間を思い出して、胸が焦げるような嫉妬が沸いた。

今や皮膚を突き破りそうな勢いで脈打つ心臓を押さえながら、後を追うべく重たい足を引きずってエレベーターへ向かい、震える指先でボタンを押す。

今夜来てみてよかった。
部屋に行って藍がいれば、さすがにキョウだって言い逃れできないだろう。

こめかみを強く押さえて眩暈を堪えつつ、やってきたエレベーターに乗り込んで上を目指す。

音もなく上昇していく箱の中で、緊張が極限まで高まっていく。
呼吸が浅く、汗がジワリと滲む。

今更ながら酔いが回ってくるような心地がして、壁にもたれながら最上階への到着を待った。

やっぱりキョウと藍は、付き合ってるの?

三千万は? 本当にキョウが藍から取ったの?

全部単なるゲーム? 右往左往するあたしを見て、楽しんでただけ?

あたしのこと、抱きながら笑ってたの?
簡単に騙されるバカな女だって、笑ってたの?

あたしにくれたあの笑顔は? 優しさは?
全部嘘だったの……?


もう少しですべてが明らかになるというのに、高揚感は欠片もなくて。
惨めな絶望感で塗りつぶされた身体が、ただただ重たかった。

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