謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
え、え、どういうことっ!?
「はわわわ……っえ、あのっすみませ……ひ、人違い……っ」
パニックの余り盛大に音の外れた台詞をみっともなく叫ぶあたしとは対照的に、彼女はなぜか訳知り顔でくすくす笑い出す。
「まぁ当たり前かぁ、姉妹だもの。この距離で騙されるわけないよね。ふふふ、大丈夫、翠さんは悪くないから」
え、翠さん? って言った?
「ど、どうしてあたしの名前……」
「あはは、ごめんなさい、びっくりさせ――」
唐突にぶつりと口を噤んだ彼女。
その顔からは、さっきまでの朗らかな笑みが掻き消えている。
表情を険しくした彼女が、片耳へ手をやるのが見えた。
「えー今? マジかー……あーあれね……ほんとだ、来ちゃったわ」
意味不明なことをつぶやいたその目線を追うと、エレベーターの階数表示のランプが下がっていくのが見えた。誰かが下で呼んだんだろう。
「ちょっと予定狂っちゃったけどしょうがないわね。翠さん、上がって隠れててくれる?」
上がって隠れててくれる??
意味が掴めずぽかんとしていると、「こっちよ」と強引に腕を引っ張られる。
そしてあれよあれよと、玄関から上がってすぐのドアの向こうへ押しやられた。
「これ持って、この中で大人しくしてて。何があっても出てきちゃダメよ。いいわね?」
三和土で脱いだ自分のパンプスを押し付けられ、唖然としている間に目の前でドアが閉まってしまう。
えぇえええ?
振り返って見れば、電気はついていないものの、明り取りの小窓のおかげでそこがトイレだということくらいはわかった。
で――あれ、と思った。
花火大会の夜に使ったトイレと、壁紙が違う気がする。
ここは、よく見えないけど白っぽい壁。
キョウの部屋のトイレは、コンクリート打ちっぱなしで、もっと無機質な感じで……
え、もしかしてここ、キョウの部屋じゃない……?