謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
突如、ドアの向こう、おそらく廊下の奥から響いたと思われる大きな音に、ビクッと肩が跳ねた。
何!? なんなの!?
防犯指導って、実地訓練込みなわけ?
唖然としたのは一瞬で。
『きゃああっ!』
『どこかって聞いてるでしょうっ! 答えなさいっ!!』
続けて女性の悲鳴と怒声、何かがぶつかるような音が交錯する。
さすがに只事じゃないと、あたしはすぐにすべての荷物をその場へ放り出し、出て来るなと言われたことも忘れて飛び出した。
廊下を一息に駆け抜け、奥の部屋へと続くドアをガチャッと勢いよく開けて――。
「え」と、立ち竦む。
まず頭に浮かんだのは、やっぱり間違えたんだ、ってこと。
だってそこはキョウの部屋とは違う、全く見知らぬ室内だったから。
誰かの住まい、ですらない。
一言でいうなら事務所、って感じ。
パーテーションを始め、オフィス用の白いデスクと椅子、キャビネットがほとんどの空間を占拠している。
この半月で家具を入れ替えたんじゃない限り、キョウの部屋じゃない。
でも、だって……最上階はキョウの部屋のはずなのに。
どうなってるの?
あぁもう全然わからないっ――と頭をかきむしりたくなったタイミングで、ガタンッと再び音が響く。
そして、パーテーションの影から2人がもみ合うようにして転がり出てきた。
あたしが息を呑んで呆然としている間に、藍のそっくりさんはフローリングの床に押し倒され、女がその上へ馬乗りになる。さらにはそっくりさんの喉元に何かを突き付けて……え、あれナイフじゃないの!?
「言え! 言いなさい! スマホはどこ!? 言えば命だけは助けてあげるわよ!!」