謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

いきなり、だった。

「何するのよぉっっ!!」
夫人の悲鳴交じりの罵声が響くや否や、全身を押しつぶしていた重量感が消え、あたしは解放されていた。

「ゲホケホッ! ゴホッ!」

「翠っ!」

幻聴? 幻覚?
あまりに逢いたすぎて、夢でも見てるのかと――

「っ!!」

しなやかな腕にきつく抱きすくめられて、懐かしい爽やかなシトラスの匂いに包まれて、瞬く間に張り詰めていた緊張が解けていくのがわかった。

……あぁ、夢じゃない。


「キョ、……」
「ったく、無茶しやがって」

呆れたような乱暴なテノールとは裏腹に、背中へ回された腕は微かに震えている。
本気で心配してくれたんだ。

「っ……」

思うそばから、あたしの頬は溢れる涙で濡れていく。

「怖かったな」

「ふ、……っ、ぅん、うん、……っ、かった、こわか、っ……ぁああっ」


< 165 / 246 >

この作品をシェア

pagetop