謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
泣いたのなんて、何年ぶりだろう。
どうしてキョウがここにいるのか、ここはキョウの部屋なのか違うのか、
聞かなきゃいけないことはあるはずなのに、口からは嗚咽しか漏れてこない。
いい年してみっともない、とか、周囲を慮る余裕もない。
自分の体感以上に、凄まじい恐怖だったんだと思う。
「っ、……ぃくっ……」
泣きじゃくりながらしがみつく大きな子どものようなあたしを、それでもキョウは辛抱強く抱きしめてくれて。
「無事でよかった」
あたしの存在を確かめるように、額へ、こめかみへ、瞼へ、頬へ、次々に優しく唇を押しあてる。
それはまるで恋人へ愛を告げるみたいな仕草で――……
徐々に涙は引っ込む一方、別の意味で鼓動が騒がしくなる。
触れられてる部分が熱くてたまらない。
こんな時に、何ドキドキしてんのっ。
どうしていいのかわからず腕の中から泳がせ気味の視線を上げると、柔らかくもどこか思いつめた光を宿す眼差しに捕まった。
「翠」
「………」
止めて。
そんな目で見ないで。
カン違いしちゃうから、だから……っ……
ゆっくりと近づいてくる彼の唇を、避けることなんてできなかった。
瞼を下ろすこともできず、ただただ震えながら待ち受ける。
見つめ合った2人の唇は、やがてピタリと――
「はいはーい、そこの2人! 2人だけの世界に入るのはちょっと早いんじゃないのー? ギャラリーいること忘れないでねぇえ?」
重ならなかった。
その直前に響いた女性の声で、ギョッと固まってしまったから。