謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「ちょ、キョウっこれは一体どういうことっ?」
問い詰めるようにシャツを掴んで揺さぶると、キョウは視線を逸らしつつ苦笑い。
「あーオレたちは、……高校時代のクラスメイトで、まぁ腐れ縁、的な?」
く、クラスメイトっ?
高校って、そんな前から……じゃあ、あの撮影は?
初めまして、って挨拶したじゃない?
ただのフリだった、ってこと!?
「何それ、どうして教えてくれなかっ――」
「警察なんて冗談じゃないわ!」
あたしの追及は白井夫人の叫び声にかき消され、それ以上続けられなかった。
「さっさと放しなさい、私は何もしてないわよ! 痛いじゃないのっ!! 年長者は敬いなさいと教わらなかったの!? 訴えてやるわよ!?」
髪を振り乱してぎゃん泣きする(涙は見えなかったが)夫人へ、複数の冷ややかな視線が突き刺さる。
「すごーい、おば様、自分が何したか、もう忘れちゃったんですね? 短期記憶が保てなくなったらもはや認知症ですよ。早めに病院を受診された方がいいんじゃありません?」
人を食ったようなセリフに、白井夫人の顔が真っ赤になる。
「なっ……何を言うのっ! あなたみたいにふざけた小娘の言うことを、誰が信じるっていうのよ! 私の夫は県庁に勤める真面目な公務員、息子もメガバンクに勤務していて、そりゃあ優秀で周囲の信頼も厚くっ――」
お馴染みの家族自慢が始まるかと思いきや、ブツっと突然言葉が途切れてしまった。
あれ、どうしたんだろ、とよくよく見れば。
床に這いつくばった夫人の目が、幽霊でも見たかのように大きく見開かれている。
何事? ってその視線を辿ったあたしは……今夜何回目かの衝撃を受けて二度見、三度見してしまった。
なんと、藍のそっくりさんだったあの彼女が、すでにそっくりさんじゃなくなっていたのだ。