謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?
「あぁさっき電話してた彼? もちろん別れてもらう。誰かと女性を共有するのは好きじゃないんでね」
もの柔らかな表情を裏切るきっぱりした返事に、まぁそうだよねと小さく吐息をつく。
あたしの方だって、彼氏と付き合いながらセフレを持つなんてE難度技はできそうにない。
それはつまり、優と別れなきゃいけないってことで……
ネックレスの鎖に指を絡め、2人で過ごした3年間に思いを馳せる。
初めてのデート、初めてのお泊り旅行、初めての――
アルバムをめくるように現れては消えていく、思い出たち。
喧嘩もたくさんしたけど、楽しいことも確かにあった。
29歳っていう年齢を考えれば、今彼とお別れしたら、そのまま婚期を逃す可能性も十分ある。
人生が変わってしまうかもしれない。
そんな大きな決断を、ここであっさりしてしまっていいのか……
「…………」
もっと、じっくり考えるべきなのかもしれない。
何より、あたしはこの男のことを何も知らない。
本当にお金を出してくれるか、保証はないし。
黒沼以上に危険なヤツっていう可能性もある。
藍を探して2人で力を合わせれば、お金を返す方法だって何か見つかるかもしれない。
けど……
――僕がロングヘア好きって知ってて、なんでその長さにするかな。洗うのがめんどくさいって、本当に女子の発言かよ?
――結婚したらフリーランスになればいいじゃん。そうしたら家事やりながらリモートワークできるし。母さんたちの様子もさ、ちょくちょく見に行ってほしいんだよねー。
――はぁ? 女と歩いてるのを見かけた? あぁ同じ部署の部下だよ。一緒に駅まで帰っただけ。それくらいで嫉妬するなよな、みっともない。
――聞こえてる。けど、聞かなかったことにする。
――絶対何か面倒なことになってるんだろ。突然そんな金が要るなんて。普通じゃない。こっちまで巻き込まないでくれ。
その時のあたしは、それが最善の道のように思えたんだ。
「わかりました……あなたの、ものに、なります。だから、助けてください」