謎のイケメンニートが「オレに任せろ」とか言ってくるんですが、大丈夫でしょうか?

その後、あたしは病院の夜間救急で診察を受けた。

首を絞められた時の痕や多少の擦過傷は認められたものの、他には特に異常なしとのことで、とりあえずホッ。
警察に提出する診断書を出してもらい、あたしたちは病院を後にした。

言葉少なに再び車に乗り込み――これまでのことを思い返しつつぼんやりしていたせいだろうか、あれ、と違和感を覚えたのは車が再び停まった後だった。

もう終電過ぎの時間だったし駅でタクシーに乗り換えるから、ってちゃんと伝えていたのに、着いた場所が出発した場所と同じだったのだ。
つまり、キョウのマンション横の駐車場。

付近にパトカーは見えないし、もう警察だって引き上げたんだろうに。
どうしてまたここに?

「あ、の……キョウ?」

「まだ話したいことがある。もう少し付き合ってくれ」
「話したい、こと?」

ギクリと反応したあたしに気づいたのかどうか、彼はさっさと自分のシートベルトを外し、ドアから出て行ってしまう。

あー……さっそくきたか。
もう少し、心の準備が欲しかったんだけど。

「ほら、降りて」

あたし側のドアが開き、外から促す声がする。

「相変わらず強引なんだから」

冗談めかしてぼやいてシートベルトを外すそばから、別れの予感に胸が軋み出してしまう。

だって、話したい事ってきっと、あたしたちのこれからについてだと思うから。

結婚も決まったことだし、もう会わない?
それとも……このまま関係を続けたい?

もし後者だったら。
愛人枠であたしを囲いたいと言われたら。

きっぱり断らなくちゃ。お金は少しずつ返すからって。
これ以上はもう、あたしの心が持たないもの。

そもそも、こんなに好きになってしまう前に離れなきゃいけなかったんだし……

いずれにせよ、この関係は今夜終わるんだ。

シンと冷たくなっていく指先を握り込み、あたしはのろのろと車を降りたのだった。

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